結論から書く。電話対応のマナーは、覚える言い回しの数ではなく、相手が状況を見られない前提で工程を組めているかで決まる。名乗り、用件の聞き取り、取次、伝言。この4工程がそれぞれ何秒で終わるかを設計するのが本体で、言葉遣いはその上に乗る。
ただし、この設計はここ数年で前提が変わった。総務省の令和6年通信利用動向調査では、企業のテレワーク導入率が47.3%ある。取り次ぐ先の人が席にいない確率が上がったということで、電話応対の重心は「つなぐ」から「預かる」へ動いている。
言葉遣いから入ると、この変化を取りこぼす。工程のほうから見ていく。
電話の型が細かく決まっているのは、相手が状況を見られないから
対面なら、来客は受付が誰かに内線をかけている姿を見ている。電話では見えない。3秒の沈黙が「切れたのか」に変わる。型が細かいのは、この見えなさを埋めるためである。
名乗りが最初に来る理由
受けたらまず会社名と部署名を名乗る。相手の第一声を待つ形にすると、相手はかけ先が合っているかを確認する一言から始めることになり、用件に入るまでの往復が一つ増える。
名乗りには、相手が誤ってかけた場合にその場で気づける機能もある。番号を押し間違えた相手に用件を話させてから訂正するより、初手で解決したほうが短い。
保留は待ち時間が見えない状態を作る
保留にすると相手は音楽だけを聞くことになり、あと何秒かの見当がつかない。だから保留に入る前に「確認いたしますので少々お待ちください」と言い、長引きそうなら一度戻って状況を伝える。
戻ったときに詫びるのは、待たせたことに対してであって、確認に時間がかかったことに対してではない。ここを混ぜると「調べるのに手間取りまして」という説明が続き、相手が知りたい結論が後ろにずれる。
取次で敬称が落ちる。答申はこの場面を設問にしている
平成19年2月2日の文化審議会答申「敬語の指針」は、電話での不在の伝え方を具体的な設問として扱っている。マナー本の慣習ではなく、国の答申が正面から書いている数少ない場面である。
自社の人間は、外に対しては呼び捨てになる
答申は、取引先の社員に自社の上司を話す場面で、「田中部長」はウチ扱いの呼び方にならないため不適切だと述べている。「部長の田中」のように職階を先に置くか、名前に触れずに「弊社の部長」と言う形が示されている。
答申はさらに、これを呼び捨てとは別の操作だと説明している。ウチとソトの関係でとらえた表現であって、上司を軽んじる行為ではない。心理的な抵抗が残る人向けに、「うちの部長」というくだけた形も併記されている。
「おりません」か「いらっしゃいません」か
不在を伝える場面では、自社の人間に尊敬語を使わない。「田中はただいま席を外しております」が基本形になる。
ただし答申は例外も書いている。学校で保護者からの電話に同僚教諭の不在を伝える場面では、ウチ・ソトの意識よりも「生徒を基準にして、その教師である」という点が優先され、「田中先生はおりません」という言い方を支持する人が多い、という調査結果を引いている。職名で「田中教諭」と呼ぶ中立的な形も示されている。
つまり、敬称を落とすかどうかは会社のルールではなく、電話の相手から見てその人が誰なのかで決まる。学校・病院・士業事務所のように、外部の人にとっても「先生」である職場では、扱いが変わりうる。対面の来客応対でどう切り替えるかは受付の言葉遣いとビジネスマナーで整理した。
伝言は5項目そろって初めて折り返しができる
取り次げなかった電話は伝言になる。ここが電話応対で最も落ちやすい工程である。
聞き取る5項目
| 項目 | 落ちたときに起きること |
|---|---|
| 会社名・部署名 | 折り返し先を特定できない |
| 氏名(漢字も) | 呼びかけを間違える |
| 電話番号 | 折り返しそのものができない |
| 用件の要旨 | 担当者が準備できずもう一往復増える |
| 都合のよい時間帯 | 折り返しが留守電の応酬になる |
5項目のうち、抜けても後で取り返せるのは用件だけである。番号が抜ければ折り返しは成立せず、時間帯が抜ければ何度もかけ直すことになる。優先順位を付けるなら、番号と時間帯を先に押さえる。
復唱は確認ではなく記録の作業
電話番号と社名は復唱する。相手の確認を取るためでもあるが、実際の効き目は自分の書き取りを固定することにある。聞きながら書くと、数字は聞こえた順ではなく思い込んだ順に並ぶことがある。
復唱の途中で相手が訂正してきた箇所は、その場でメモに印を付ける。訂正された箇所は、後でもう一度読み違える確率が高い。
固定電話が半分の家にしかない時代の電話応対
電話応対の型は変わっていないが、電話そのものの位置づけは動いた。総務省の令和6年通信利用動向調査(令和6年8月末時点・有効回収15,304世帯)で、世帯の情報通信機器保有率はこうなっている。
世帯の固定電話保有率の推移
| 年 | 固定電話 | FAX | スマートフォン |
|---|---|---|---|
| 2005年 | 90.7% | 50.4% | ー |
| 2013年 | 79.1% | 46.4% | 62.6% |
| 2019年 | 69.0% | 33.1% | 83.4% |
| 2024年 | 54.9% | 24.5% | 90.5% |
20年で36ポイント落ちた。家に固定電話がない世帯が45%あるということは、受け方も、かけ方も、家庭で身につける機会がない人が一定数いるということでもある。職場で初めて固定電話に触る新人がいる前提で、教える側は手順を書き出しておいたほうがいい。
テレワーク47.3%が「席にいない」を標準にした
同じ調査で、テレワークを導入している企業の割合は47.3%だった。前年に続いて減少しているが、半数近くが制度として持っている水準である。
代表電話にかかってきた用件を、その場で担当者につなげる確率は下がっている。取次が成立しない前提で組むなら、伝言の精度と折り返しの約束が電話応対の中心になる。「戻り次第折り返します」と言った時点で、その約束は受けた側の記録にしか残っていない。
電話を専業にする職種と、片手間で受ける職種は分かれている
同じ「電話対応」でも、業務に占める比重は職種で違う。厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査は、この2つを別の職種として集計している。
2職種の実額と労働時間
| 職種 | 年収換算 | パート時給 | 所定内実労働時間 | 超過 | 労働者数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 電話応接事務員 | 約394万円 | 1,363円 | 154時間 | 8時間 | 179,540人 |
| 受付・案内事務員 | 約356万円 | 1,231円 | 160時間 | 7時間 | 84,880人 |
電話応接事務員は電話の呼び出し・交換・取次ぎや電話による照会対応を専業とする区分で、コールセンターオペレーターや電話交換手を含む。受付・案内事務員は来客対応が主で、電話は業務の一部にあたる。
コールセンターと電話交換手が同じ箱に入っているため、この17万9,540人から交換手だけを取り出した数字は出てこない。箱の中身は電話交換・インフォメーションの仕事で開いた。
年収で38万円、パート時給で132円の差がある。電話を専業にするほうが高い。所定内実労働時間は逆に電話応接事務員のほうが6時間短く、受付は持ち場の拘束が長い形になっている。
求人票で電話の量を測る
求人票に「電話対応あり」とだけ書かれている場合、量は読み取れない。判断材料になるのは、代表電話を受けるのか個別の内線を受けるのか、席にいる人数、そして受付以外の業務が併記されているかどうかである。
代表電話を1人で受ける職場では、着信のたびに手元の作業が止まる。書類作成と電話が同じ人に乗っている求人は、電話の合間に事務を進める形になると考えておくほうが実態に近い。事務系の求人を条件から見比べるなら受付事務・オフィスワークの求人特集が入り口になる。
よくある質問
電話は何コールで取るべきですか
コール数の基準を定めた公的なルールはありません。社内規程で3コール以内と決めている職場は多いものの、根拠は各社の運用にあります。むしろ確認したいのは、取れなかったときに誰が取るかが決まっているかどうかです。決まっていない職場では、鳴り続ける電話を全員が見ている状態が起きます。
相手の会社名が聞き取れないときはどうしますか
その場で聞き返します。「恐れ入ります、もう一度お聞かせいただけますか」で足ります。聞き取れないまま取り次ぐと、内線の先でもう一度確認することになり、相手を二度待たせます。聞き返しは工程を1回で終わらせるための動作です。
自社の社長を取引先に伝えるとき、敬称は付けますか
文化審議会答申「敬語の指針」の考え方では、社外の人がいる場面では自社の人物を立てません。「社長の田中」あるいは「弊社の社長」となります。答申は社内の忘年会と社外の人が多い会を対比し、前者では社長を立て、後者では立てないのが適切だと説明しています。
折り返しの時間を約束できないときは何と言いますか
確認できない予定を答えないほうが安全です。「戻り次第、こちらから折り返しいたします」と伝え、相手の都合のよい時間帯を先に聞きます。テレワーク導入企業が47.3%ある以上、担当者の在席状況を受けた側が把握していない場面は珍しくありません。
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出典
- 文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日・文化庁) https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/keigo_tosin.pdf
- 総務省「令和6年通信利用動向調査」(令和6年8月末時点・世帯有効回収15,304世帯・回収率38.9%/企業2,330社) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/250530_1.pdf
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別・企業規模計10人以上 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
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