コールセンターの経験が最も素直に効くのは、同じ「顧客情報を検索して、確認して、記録に残す」構造を持つ事務系の職種である。
ただし、そこから先の話は求人サイトの職種名では決まらない。厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査で年収を並べると、総合事務員は約530万円で、コールセンターのオペレーター(電話応接事務員)の約394万円を136万円上回る。
この136万円を「事務職に移れば上がる額」と読むと、まず外れる。同じ調査で、総合事務員の平均勤続年数は13.0年、電話応接事務員は7.8年だからである。
コールセンターの経験のうち、外に持ち出せるのはどの部分か
移り先を選ぶ前に、手元にある材料を確定させておきたい。
受託業務の上位3つは、すべて検索と入力を伴う
日本コンタクトセンター協会(CCAJ)が2025年度に実施したコンタクトセンター企業実態調査(対象109社・回答68社)で、センター業務の受託内容を尋ねた結果(複数回答)はこうなった。
| 受託内容 | 社数 | 割合 |
|---|---|---|
| カスタマーサポート | 64社 | 94.1% |
| 問い合わせ受付 | 61社 | 89.7% |
| 受注センター | 47社 | 69.1% |
| 事務局業務 | 44社 | 64.7% |
| 営業サポート | 38社 | 55.9% |
上から3つが7割を超えている。いずれも、顧客情報を検索し、内容を確認し、結果を記録に残す作業を含む。応対そのものより、この一連の操作を止めずに回す速さが、事務系へそのまま持ち出せる技能になる。
業界が自動化しようとしているのは、定型の応対のほう
同調査の経営課題の項目では、「AI活用による自動化対応・セルフサービス化の推進」を優先度が高いと答えた企業が63社にのぼる。対応状況を見ると、着手している45社に対して検討中が21社、着手していないが2社だった。優先度の高い上位5項目のうち、未着手が最も多いのがこの項目である。
優先度は高いが、まだ着手しきれていない。これから削られる予定の作業が、まだ現場に残っている状態と読める。
削られる側にあるのは、答えが決まっている問い合わせの処理である。残るのは、条件が揃わない案件の判断と、例外の処理になる。職務経歴書に書く価値があるのも後者で、応対件数や平均通話時間は、機械に置き換わる想定の指標として読まれる余地がある。
転職先の年収は、職種名ではなく勤続年数で決まっている
年収の比較表は、勤続年数の列を並べないと読み違える。
事務系職種の年収と勤続年数
| 職種 | 年収換算 | 平均勤続年数 |
|---|---|---|
| 秘書 | 約555万円 | 9.8年 |
| 総合事務員 | 約530万円 | 13.0年 |
| 会計事務従事者 | 約509万円 | 12.7年 |
| その他の一般事務従事者 | 約481万円 | 11.7年 |
| 電話応接事務員(コールセンター) | 約394万円 | 7.8年 |
| 事務用機器操作員(データ入力) | 約356万円 | 7.5年 |
| 受付・案内事務員 | 約356万円 | 8.6年 |
年収換算は「きまって支給する現金給与額×12ヶ月+年間賞与」で計算した。
コールセンターより上に並ぶ4職種は、勤続年数もそろって上にある。総合事務員との136万円差は5.2年分、会計事務従事者との115万円差は4.9年分の在籍の長さを伴っている。
差の正体は在籍の長さのほうにある
同じ表を勤続の順に読み直すと、年収の順序とほぼ一致する。例外は秘書だけで、勤続9.8年で555万円と、勤続の割に高い位置にある。
つまり事務系の年収は、職種の格ではなく、その職種で何年積んだかで決まっている。移った初年度に総合事務員の530万円が出るという読み方は、統計の形と合わない。
逆に言えば、いま7.8年の平均に対して自分が何年目かは、そのまま移り先での見通しに効く。年収の内訳と、コールセンター側で年収を動かす条件はコールセンターの年収・給料で分解した。
枠の大きさが、現実的な選択肢を決める
年収表の順位が、そのまま応募先の見つけやすさになるわけではない。職種ごとに、就いている人数がまるで違う。
労働者数を並べると順位が変わる
| 職種 | フルタイムの労働者数 |
|---|---|
| 総合事務員 | 1,195,030人 |
| その他の一般事務従事者 | 1,012,200人 |
| 会計事務従事者 | 482,860人 |
| 電話応接事務員(コールセンター) | 179,540人 |
| 事務用機器操作員(データ入力) | 94,110人 |
| 受付・案内事務員 | 84,880人 |
| 秘書 | 19,480人 |
総合事務員はコールセンターの6.7倍の人数を抱えている。求人の絶対数もこの比に近い形で存在すると考えるのが自然で、応募先を選ぶ余地は最も大きい。
年収が最も高い職種は、枠が最も小さい
年収555万円で1位だった秘書は、労働者数1万9,480人で最下位である。電話応接事務員の10.8%しかない。
枠が小さい職種は、募集の頻度も、未経験を採る余裕も限られる。年収表の1位を目標に置くと、応募先が見つからないまま在籍だけが延びるという結果になりやすい。
データ入力と受付は、年収では下位に来るが枠は10万人規模ある。移りやすさで選ぶならこちら側で、その分だけ年収は下がる。データ入力の実務と入り口は一般事務・データ入力の仕事で整理した。
短時間勤務で移る場合、順序が入れ替わる職種がある
フルタイムで移るのか、パートで移るのかで、比較の結論は変わる。
パートの時給を並べる
| 職種 | 1時間当たり所定内給与額 |
|---|---|
| 秘書 | 1,859円 |
| 会計事務従事者 | 1,593円 |
| 総合事務員 | 1,509円 |
| その他の一般事務従事者 | 1,502円 |
| 電話応接事務員(コールセンター) | 1,363円 |
| 事務用機器操作員(データ入力) | 1,241円 |
| 受付・案内事務員 | 1,231円 |
コールセンターより時給が上がるのは4職種で、最も差が大きい会計事務従事者でも230円である。総合事務員は146円上がる。
下がる側に、移り先の定番が2つ入っている
一方、データ入力は122円、受付は132円それぞれ下がる。1日6時間・月14日で計算すると、月額で1万円前後の減少にあたる。
「電話から離れたい」という動機で移り先を探すと、この2つが候補の上位に来やすい。ところが短時間勤務の時給で見ると、どちらもコールセンターより下にある。電話を手放すことに、月1万円前後の対価が付いていると読んだほうが実態に近い。
金額そのものより、この順序を先に知っておくかどうかで判断が変わる。時給が上がると想定して動くと、内定の段階で条件が合わなくなる。
時間あたりで比べると、差はもう少し縮む
年収の比較表には、働いた時間の長さが入っていない。
拘束時間はコールセンターが短いほうに入る
| 職種 | 所定内実労働時間 | 超過実労働時間 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 秘書 | 152時間 | 8時間 | 160時間 |
| 電話応接事務員(コールセンター) | 154時間 | 8時間 | 162時間 |
| その他の一般事務従事者 | 154時間 | 9時間 | 163時間 |
| 総合事務員 | 155時間 | 10時間 | 165時間 |
| 会計事務従事者 | 157時間 | 9時間 | 166時間 |
| 事務用機器操作員(データ入力) | 156時間 | 10時間 | 166時間 |
| 受付・案内事務員 | 160時間 | 7時間 | 167時間 |
秘書を除けば、コールセンターが最も短い。総合事務員へ移ると月3時間、受付へ移ると月5時間増える計算になる。
差そのものは小さい。それでも、年収表を「同じ時間で136万円多い」と読むのは正確ではない、という程度には効く。
時給換算に直すと289円差になる
所定内給与額を所定内実労働時間で割ると、時間あたりの単価が出る。
| 職種 | 時給換算 |
|---|---|
| 秘書 | 2,347円 |
| 総合事務員 | 2,092円 |
| 会計事務従事者 | 2,027円 |
| その他の一般事務従事者 | 2,000円 |
| 電話応接事務員(コールセンター) | 1,803円 |
| 事務用機器操作員(データ入力) | 1,577円 |
| 受付・案内事務員 | 1,510円 |
総合事務員との差は289円、会計事務従事者とは224円。データ入力は226円、受付は293円それぞれ下に来る。
136万円という年収差は、時間あたりに直すと289円である。そしてこの289円には勤続5.2年分が乗っている。移った直後に並ぶのは表のこの位置ではなく、その職種の入り口の水準になる。
業界の中で移るという選択肢
転職先を社外に限る必要はない。CCAJ調査には、社内に空いている枠を示す数字がある。
SVの不足感は全職種で最も高い
職種ごとの過不足を答えた66社のうち、スーパーバイザーに不足感(「不足している」と「やや不足している」の合計)があるのは58社で87.9%だった。コミュニケーター・オペレーターの72.7%より強い。どちらの職種でも「過剰気味である」と答えた企業はゼロである。
同調査によると、SV1人あたりが受け持つコミュニケーターの数は平均8.93人で、2023年度8.54人、2024年度8.83人と3年連続で増えている。1人のSVが見る人数が増え続けているのは、補充が現場の増員に追いついていないことを示している。
オペレーターとして数年積んだ人にとって、この不足は社内で最も近い移動先になる。平均勤続7.8年という時間軸を踏まえると、社外の事務職で勤続を積み直すより、在籍を続けたまま役割を変えるほうが早い場合がある。管理側の求人を条件から見るならSV・管理者の求人で雇用形態や勤務地を指定できる。
働き方だけを変えて解決する場合もある
在宅オペレーションを「既に実施している」企業は、非公開を除く65社中39社で60%に達した。実施理由の最多は「働き方の多様化のため」で39社中33社(84.6%)である。
通勤時間や勤務地が辞めたい理由の中心なら、職種を変えずに条件だけを変える経路がある。一方、「実施予定はない」と答えた22社のうち18社(81.8%)はセキュリティ上の問題を理由に挙げており、在宅化できるかどうかは本人の希望ではなく案件の性質で決まる。同じ業界内でも会社ごとの差が大きい部分になる。実施状況と選び方は在宅コールセンターの始め方で扱った。
辞める理由が会社にあるのか職種にあるのかを、先に確定させる
移り先を比較する前に済ませておきたい確認がある。
会社を変えれば消える条件
CCAJ調査で直接雇用の割合を答えた企業の分布は、「61%以上70%」が17社で最多、次いで「81%以上90%」が10社、「71%以上80%」が9社と続く。「直接雇用のみ」も8社ある。専任トレーナーは「いる」36社に対して「いない」30社、専任のQC・QA担当者は「いる」31社に対して「いない」35社で割れている。
雇用の安定度も、研修と品質管理の体制も、業界の性質ではなく会社ごとの方針で決まっている。ここが原因なら、職種を変えるのは過剰な対処になる。
職種を変えないと消えない条件
一方、用件を選べないこと、応対を記録に残し続けること、評価が通話の中身で行われることは、どのセンターにも付いてくる。ここが理由なら、同業他社に移っても同じ状態になる。
切り分けの手順と判断軸はコールセンターに向いている人・向いていない人にまとめた。先にこの判定を済ませると、比較すべき職種の範囲が狭くなる。
在籍中に進める順番
ここまでの数字を、動く順序に落とすとこうなる。
4つの順序
- 辞めたい理由を、会社起因と職種起因に分ける。会社起因なら、同業他社と社内異動が先に候補へ入る。
- 社内の移動可能性を確認する。SVの不足感87.9%は、社外へ出る前に確かめる価値のある数字である。
- 移り先の年収を、勤続年数とセットで見る。530万円は13.0年の集団の値で、初年度の提示額ではない。
- 枠の大きさで応募先を絞る。総合事務員119万5,030人と秘書1万9,480人では、探せる求人の量が違う。
この順序で進めると、1と2の段階で結論が出ることがある。年収表を先に見ると、3と4を飛ばして応募先を決めてしまい、条件のすり合わせで止まりやすい。
なお、業界そのものの規模は縮んでいる。同調査で売上高を公開した47社の合計は1兆5,260億3,400万円で、前年度比4.8%の減少だった。前年度と比較可能な37社に限っても4.4%減である。社内に残る選択肢を検討する場合も、この方向は織り込んでおきたい。
よくある質問
コールセンターの経験は転職で評価されますか
CCAJ調査でセンターが受託している業務は、カスタマーサポート94.1%、問い合わせ受付89.7%、受注センター69.1%が上位を占める。いずれも顧客情報の検索と入力を伴うため、事務系の職種と作業が重なる。評価されるのは応対の巧拙より、システム操作と記録の速さのほうになる。
コールセンターから事務職に転職すると年収は上がりますか
総合事務員の年収換算は約530万円で、電話応接事務員の約394万円より136万円高い。ただし総合事務員の平均勤続年数は13.0年、電話応接事務員は7.8年である。差の大半は在籍の長さに由来しており、移った初年度に埋まる差ではない。
データ入力への転職は条件が良くなりますか
フルタイムの年収換算は事務用機器操作員が約356万円で、電話応接事務員の約394万円を38万円下回る。短時間勤務の時給も1,241円で、コールセンターの1,363円より122円低い。電話から離れる代わりに、金額は下がる側に動く。
何年働いてから転職するのがいいですか
賃金統計に「何年で移ると有利か」を示す項目はない。読み取れるのは、事務系の年収が勤続年数とほぼ並んで動いているという形だけである。移り先で年収が伸びるかどうかは、そこで何年続けるかに依存する。
コールセンターの経験しかなくても正社員になれますか
CCAJ調査で雇用状況を答えた67社のうち、直接雇用の方が派遣より多い企業は52社(77.6%)を占めた。2024年度と比較可能な47社の正規社員数は3万8,916人から4万977人へ2,061人増えている。業界内での正社員枠は縮んでいない。社外については、この調査からは判断できない。
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出典
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)/短時間労働者 職種別1時間当たり所定内給与額(企業規模計10人以上) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
- 一般社団法人日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(対象109社・回答68社・回収率62.4%・2025年6月16日〜7月23日実施) https://ccaj.or.jp/telemarketing/doc/outsourcing_research_2025.pdf
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