介護施設の受付は、カウンターの前に立つ人の性質が他の受付職と違う。サービスを買いに来た客ではなく、入居者の家族、ケアマネジャー、実習生、納品業者、自治体の職員が入れ替わり訪れる。
そしてこの職場には、受付という職種が制度の一覧に載っていない。
指定介護老人福祉施設に置くべき従業者の員数を定めた省令は、6つの区分を挙げている。医師、生活相談員、介護職員または看護職員、栄養士または管理栄養士、機能訓練指導員、介護支援専門員。事務員も受付も、この中にない。
受付が人員基準にないことが、この仕事の形を決めている
配置が義務づけられていない職種は、置くかどうかも、何をさせるかも施設の裁量になる。求人票の書き方がばらつくのは、この段階から始まっている。
基準に挙がっている職種と、その人数
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第2条第1項は、生活相談員について、入所者の数が100またはその端数を増すごとに1以上と定めている。同条第5項により、生活相談員は常勤でなければならない。
介護職員と看護職員の総数は、常勤換算方法で入所者の数が3またはその端数を増すごとに1以上。入所者3人に対して1人という密度が置かれているのは介護と看護の側で、家族対応や事務の側には人数の規定がない。
在所者66.5人に対して、生活相談員は1人という計算になる
厚生労働省の令和6年介護サービス施設・事業所調査によると、令和6年10月1日現在の介護老人福祉施設の1施設当たり定員は70.4人、1施設当たり在所者数は66.5人、利用率は94.5%だった。
入所者100人までは生活相談員1人以上という基準に当てはめると、この規模の施設では常勤の生活相談員が1人という配置になる。家族対応の主担当はこの生活相談員である。
ただし、その1人がカウンターに座り続けているわけにはいかない。電話が鳴ったとき、来訪者が入口に立ったときに最初に受けるのは、受付か事務の側になる。取り次ぎに見える仕事に判断が混ざるのは、この人数構成のためである。
苦情を受け付ける窓口は、省令で置くことが決まっている
家族からの申し出は、聞いて終わりにできる性質のものではない。
第33条が求めていること
同省令第33条第1項は、提供した指定介護福祉施設サービスに関する入所者およびその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応するために、苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を講じなければならないと定めている。
第2項は、苦情を受け付けた場合にその内容等を記録することを求める。さらに第37条第2項は、この記録を完結の日から2年間保存することを求めている。
書いて残す対象になっている、という点が他業態の受付と大きく違うところだ。
記録の先に、市町村と国民健康保険団体連合会がいる
同条第3項以下は、市町村が行う文書の提出の求めや職員からの質問・照会に応じること、入所者からの苦情に関して市町村が行う調査に協力すること、指導または助言を受けた場合はそれに従って必要な改善を行うことを定めている。国民健康保険団体連合会が行う調査についても、協力と改善、改善内容の報告が同じように置かれている。
家族の一言が施設の外の機関まで届く経路が、制度として用意されている。「担当の者に伝えておきます」と受付が答えたあと、その伝言がどの記録に載るのかを知っているかどうかで、扱いの重さが変わる。
事故が起きたときの連絡先に、家族が明記されている
第35条第2項は、サービスの提供により事故が発生した場合、速やかに市町村と入所者の家族等に連絡を行い、必要な措置を講じなければならないとしている。第3項は、事故の状況と事故に際して採った処置についての記録を求める。
家族への連絡は施設側の心づかいではなく、義務として置かれている。緊急連絡先の一覧が最新かどうかを確かめる作業が受付に回ってくるのは、この条文があるからだ。
来訪者の扱いは、感染対策と運営規程の側から決まる
面会の手順を直接定めた条文は、この省令にはない。決まり方が違う。
第27条が求める、まん延防止の措置
第27条第2項は、当該施設において感染症または食中毒が発生し、またはまん延しないように必要な措置を講じることを求め、その一つとして、対策を検討する委員会をおおむね3か月に1回以上開催することを挙げている。
面会の受付方法、来訪者の記帳、体調の確認。この運用が施設ごとに違うのは、法令が手順そのものを書いているのではなく、まん延防止の措置として各施設が決める形になっているためである。
「施設の利用に当たっての留意事項」は運営規程に書かれる
第23条は、運営規程に定めるべき重要事項を列挙している。施設の目的および運営の方針、従業者の職種・員数・職務の内容、入所定員、サービスの内容と利用料、施設の利用に当たっての留意事項、緊急時等における対応方法、非常災害対策、虐待の防止のための措置に関する事項などである。
面会の時間帯や来訪者のルールは、この「施設の利用に当たっての留意事項」に落ちる。受付が説明している内容は、現場の慣習ではなく規程に書かれた文言だということになる。
転職したときに前の施設のやり方がそのまま通じないのは、規程が施設ごとに定められているからである。覚え直す範囲は思ったより広い。医療機関側の窓口業務と比べたい場合はクリニック・病院受付の窓口業務が近い。
施設の種類で、受付の前を通る人が入れ替わる速度が変わる
同じ介護施設という括りでも、入所系と通所系では相手の回り方が違う。
| 施設・事業所 | 令和6年10月1日現在 | 定員 |
|---|---|---|
| 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) | 8,621施設 | 604,469人 |
| 介護老人保健施設 | 4,214施設 | 365,939人 |
| 介護医療院 | 917施設 | 52,837人 |
| 通所介護(デイサービス) | 24,585事業所 | ー |
| 地域密着型通所介護 | 18,921事業所 | ー |
| 認知症対応型共同生活介護(グループホーム) | 14,341事業所 | ー |
事業所数だけを見れば、通所介護と地域密着型通所介護を合わせた43,506事業所が、入所系3種の合計13,752施設を大きく上回る。
入所系は同じ家族と長く付き合う
特別養護老人ホームの利用率は94.5%で、ほぼ満床で回っている。在所者の顔ぶれが変わりにくく、受付は同じ家族と何年も接することになる。関係が積み上がる一方で、こじれたときにも同じ相手が残る。
通所系は毎日入れ替わり、送迎の時間に集中する
通所介護は利用者が日ごとに入れ替わる。来訪の山は送迎の時間帯に立ち、その前後は事務に回せる。入所系のように長期の関係を背負わないかわりに、名前と体調の情報を短い接触で捌く速度が要る。
向き不向きは、人当たりの良さより、同じ相手と長期の関係を持つことに耐えられるかどうかで分かれる。求人を受付・コールセンターの求人を探すときに、施設種別を先に決めておくと迷いが減る。
給料は2つの職種の統計で挟んで見る
介護施設の受付だけを切り出した賃金統計はない。近い区分を2つ並べると、募集の位置が読める。
受付・案内事務員と介護職員の差は年収20万円
| 職種 | 正社員の年収換算 | パートの時給 | 平均勤続 |
|---|---|---|---|
| 受付・案内事務員 | 約356万円 | 1,231円 | 8.6年 |
| 介護職員(医療・福祉施設等) | 約376万円 | 1,323円 | 8.5年 |
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査による。年収換算は「きまって支給する現金給与額 × 12か月 + 年間賞与」で算出した。差は年収で約20万円、時給で92円である。
介護施設で受付として募集されていても、実際には介護補助を含む業務であることがある。人員基準に受付が挙がっていない以上、職種名だけでは範囲が確定しない。給与の水準がどちらに寄っているかは、業務範囲を推し量る手がかりになる。受付という職種全体の枠組みは受付の仕事の種類と勤務先で整理している。
よくある質問
介護施設の受付に資格は必要ですか
指定介護老人福祉施設の人員基準が挙げているのは、医師、生活相談員、介護職員または看護職員、栄養士または管理栄養士、機能訓練指導員、介護支援専門員の6区分である。受付はこの中になく、資格要件も定められていない。ただし業務範囲が介護補助に及ぶ募集では、事情が変わる。
介護の経験がないと務まりませんか
経験を応募条件にするかどうかは施設ごとの判断になる。受付が担う中心は、来訪者の対応と家族からの連絡の受け止めであり、これは省令が苦情を受け付ける窓口の設置を求めていることと対応している。介護技術そのものより、記録を正確に残せるかが効く。
家族からの苦情は受付が対応するのですか
対応の主担当は生活相談員である。ただし省令が求めているのは窓口の設置と記録であり、電話や来訪の一次受けは受付に回ることが多い。受け止めた内容を誰にどう渡すかが、この職場での実務になる。
デイサービスと特別養護老人ホームでは受付の仕事は違いますか
相手の入れ替わる速度が違う。特別養護老人ホームは8,621施設・定員604,469人で利用率94.5%と、ほぼ固定された在所者に対応する。通所介護は24,585事業所あり、利用者が日ごとに入れ替わる。長期の関係を持つか、短い接触を数多く捌くかの違いになる。
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出典
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第2条・第23条・第27条・第33条・第35条・第37条 https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039
- 厚生労働省「令和6(2024)年 介護サービス施設・事業所調査の概況」(令和6年10月1日現在で活動中の施設・事業所/表1・表2・表3)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service24/index.html
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」受付・案内事務員および介護職員(医療・福祉施設等)(産業計・企業規模計10人以上・男女計)
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