コールセンターの求人に「未経験歓迎」が並ぶ理由は、はっきりしている。日本コンタクトセンター協会(CCAJ)の2025年度コンタクトセンター企業実態調査では、採用活動について答えた67社のうち45社、82.1%が「苦労している」または「やや苦労している」と回答した。
採用に困っている業界は、経験者だけを選り好みできない。だから入り口は広い。
ただし、入り口が広いことと、入ったあとが整っていることは別の話である。同じ調査には、新人を教える体制が会社によって二つに割れていることを示す数字も入っている。研修が手厚いセンターと、教える専任者がいないセンターが、ほぼ半々で並んでいる。
未経験で応募するときに見るべきなのは、たぶん「未経験歓迎」の4文字ではない。
未経験が入りやすいのは、業界が採用に困っているからである
まず、入り口の広さがどこから来ているかを確定させておきたい。
採用に苦労している企業が82.1%
CCAJの2025年度調査は、コールセンター・エージェンシー(受託会社)109社を対象に68社が回答したものである(回収率62.4%、2025年6月16日〜7月23日実施)。採用活動の状況を尋ねた設問では、非公開の1社を除く67社のうち「苦労している」が26社、「やや苦労している」が29社だった。
合わせて45社、82.1%。「あまり苦労していない」と「苦労していない」を合わせても、ごくわずかに収まる。
不足しているのは電話に出る人だけではない
職種ごとの過不足を尋ねた設問では、非公開2社を除く66社のうち「コミュニケーター・オペレーター」に不足感があると答えたのが48社(72.7%)、「スーパーバイザー」が58社(87.9%)だった。5職種のいずれについても「過剰気味である」と答えた企業は1社もない。
オペレーターが足りず、それを束ねるSVはもっと足りない。未経験者が入る枠は、この二重の不足の下側にある。
ただし「入りやすい」と「続けやすい」は別である
同じ調査で、業界全体の売上高は公開した47社の合計で1兆5,260億3,400万円、前年度比4.8%の減少だった。人手は足りないのに、扱う仕事の総量は縮んでいる。
この2つが同時に起きている業界では、採用の門は開くが、入ったあとの条件が自動的に良くなるわけではない。門の広さと待遇の良さを、同じ数字の裏表として読まないほうがいい。仕事そのものの全体像はコールセンターの仕事とはで整理している。
研修は誰が担当するのか。会社によって二極化している
「研修は何日ですか」という質問より先に、確認したい項目がある。教える人が誰か、である。
専任トレーナーがいる会社は52.9%
CCAJ調査は、専任スタッフの有無を3年続けて尋ねている。
| 区分 | 2025年度(N=68) | 2024年度(N=70) | 2023年度(N=64) |
|---|---|---|---|
| 専任トレーナーが「いる」 | 36社 | 32社 | 30社 |
| 専任トレーナーが「いない」 | 30社 | 34社 | 32社 |
| 専任QC・QA担当者が「いる」 | 31社 | 29社 | 31社 |
| 専任QC・QA担当者が「いない」 | 35社 | 36社 | 32社 |
2025年度に専任トレーナーがいると答えたのは68社中36社で52.9%。いないと答えた30社は44.1%にあたる。3年で増えてはいるが、まだ半々に近い。
専任QAがいない会社は半数を超える
応対品質をチェックする専任のQC・QA担当者については、「いない」が35社で「いる」の31社を上回った。51.5%のセンターに専任の品質担当がいない。
教育の専任者も品質の専任者もいないセンターでは、この2つの仕事は現場の誰かが引き受けている。実務上、その役はSV(スーパーバイザー)に回る。新人が受ける研修とフィードバックの質は、そのセンターのSVが何人を抱えているかに直結するということになる。同じ調査でSV1人あたりのコミュニケーター数は平均8.93人、2023年度の8.54人から3年連続で増えている。
研修期間より先に確認したいこと
研修が何日間かという情報は、求人票に書いてあることが多い。ただ、20日間の研修でも、講師が専任か、SVが通常業務の合間に見ているかで中身は変わる。
未経験で応募するなら、面接で「研修は専任の担当者が行いますか」と聞いておきたい。答えが即座に返ってこない場合、教育の枠組みが決まっていない可能性がある。研修後にフィードバックを受ける相手が誰になるかも、同じ質問で見当がつく。
最初に覚えるのは、電話だけではない
「コールセンター=電話」という前提で入ると、初月にずれが生じる。
電話は95.6%。ただしメールが80.9%、チャットが55.9%
2025年度に提供しているチャネルは次の通りだった。
| チャネル | 対応している企業の割合(N=68) |
|---|---|
| 電話 | 95.6% |
| eメール | 80.9% |
| Webフォーム | 69.1% |
| FAX | 58.8% |
| 有人チャット | 55.9% |
| チャットボット | 48.5% |
| AIボイスボット | 35.3% |
| ソーシャルメディア | 32.4% |
電話がほぼ全社という点は予想通りとして、eメールが8割、Webフォームが7割近い。有人チャットも半数を超えた。電話しか触らない職場のほうが、いまは少数派に近い。
増えているのはテキストと自動応答のほうである
業務の増減を尋ねた設問では、メールやチャット等のテキスト業務が「昨年度より増加した」28社で、テキスト業務を行っていない企業を除く62社の45.2%を占めた。チャットボットやボイスボットによる自動応答も「増加した」が21社で、実施企業50社の42%だった。
一方、電話業務は「昨年度より減少した」が19社で、「増加した」の16社を上回っている。
電話が減ることは、新人にとって楽になることを意味しない
自動応答が増えると、単純な問い合わせは人に届く前に処理される。人の手元に残るのは、ボットで解決しなかった案件のほうだ。
つまり、電話の本数が減っても、1件あたりの難度は下がらない。むしろ上がる方向に動く。研修初日に想像する「かんたんな問い合わせから慣れていく」という道筋は、チャネルの構成によっては成立しない。この点は入る前に織り込んでおきたい。
未経験の入り口は、ほぼ「受信・個人相手」である
自分がどんな電話を取ることになるのかは、業界データからかなり絞り込める。
インバウンド中心が85.1%
電話業務のイン・アウトの比率(売上ベース)を答えた67社のうち、「インバウンドのみ」が2社、「インバウンドの方が多い」が55社。合わせて57社で85.1%を占めた。「アウトバウンドの方が多い」は8社、「アウトバウンドのみ」は1社にとどまる。
かかってくる電話を受ける仕事が主流で、こちらからかける仕事は少数派である。「電話をかけて断られ続けるのがつらそう」という不安は、確率としては当たりにくい。
相手は個人が70.1%
コールの対象(売上ベース)では、「B to Cのみ」4社と「B to Cの方が多い」43社を合わせて47社、非公開を除く67社の70.1%が個人向けだった。
個人向けの受信業務は、話す相手が企業の担当者ではなく生活者になる。専門用語の共有を前提にできない代わりに、案件の難度そのものは企業間取引より落ち着いていることが多い。
発信中心の職場に入るときの違い
少数派とはいえ、アウトバウンド中心の職場は9社ある。こちらは架電件数やアポイント数といった数値目標が置かれやすく、評価の仕組みが受信とは別物になる。求人票の「インセンティブあり」「歩合」という表記は、発信業務のサインとして読める。両者の違いはインバウンドとアウトバウンドの違いで整理した。
「未経験でも同じ給料か」を統計で確かめる
求人票の時給が高く見えるかどうかは、比べる相手を決めないと判断できない。
平均394万円は、入社初年度の数字ではない
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査では、コールセンターの従事者は「電話応接事務員」(電話交換手を含む職種区分)として集計されている。
| 区分 | 金額 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 労働者数 |
|---|---|---|---|---|
| フルタイム(一般労働者)の年収換算 | 約394万円 | 43.6歳 | 7.8年 | 179,540人 |
| パート・アルバイトの時給 | 1,363円 | 50.2歳 | 5.7年 | 97,730人 |
年収換算は「きまって支給する現金給与額295,200円 × 12ヶ月 + 年間賞与393,700円」で計算した。平均勤続7.8年の集団の平均値なので、未経験1年目に届く額ではない。
パートの1,363円という基準線
短時間労働者の時給1,363円は、実労働日数14.0日・1日の所定内労働時間5.9時間という働き方の平均である。月収に直すと約11.3万円になる。
この層の平均年齢は50.2歳、平均勤続5.7年。学生や若手が短期で入れ替わる集団ではなく、生活の時間に合わせて長く続けている人たちの数字だという点は押さえておきたい。
求人票の時給は割り戻して比べる
未経験募集の求人には「研修期間中は時給◯◯円」という条件が付くことが多い。研修が20日間で本採用より時給が100円低いなら、初月の実収入はその分だけ下がる。
比べる順序としては、まず本採用後の時給を1,363円と並べ、次に研修期間の長さと研修中の時給を確認する。この2段階を踏まないと、条件のいい求人と研修が長いだけの求人が混ざる。給与の全体像はコールセンターの年収・給料に分解してある。
最初の1ヶ月の不安は、どこに置くのが正しいか
未経験の不安は「クレームが怖い」に集まりやすい。ただ、実際に辞めた人が挙げる理由の分布は、少し違う場所を指している。
辞めた理由の上位は、労働条件と人間関係である
厚生労働省の令和6年雇用動向調査(全国約15,000事業所を抽出して実施)から、転職入職者が前職を辞めた理由を抜き出した。
| 前職を辞めた理由 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| その他の個人的理由 | 20.2% | 24.3% |
| 定年・契約期間の満了 | 14.1% | 10.7% |
| 給料等収入が少なかった | 10.1% | 8.3% |
| 職場の人間関係が好ましくなかった | 9.0% | 11.7% |
| 労働時間、休日等の労働条件が悪かった | 8.6% | 12.8% |
| 会社の将来が不安だった | 7.4% | 5.1% |
| 仕事の内容に興味を持てなかった | 4.4% | 3.6% |
| 能力・個性・資格を生かせなかった | 3.8% | 3.7% |
女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%と「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%が上位に来る。男性では「給料等収入が少なかった」10.1%が高い。
「仕事の内容」を理由に辞める人は4%前後にとどまる
一方、「仕事の内容に興味を持てなかった」は男性4.4%・女性3.6%、「能力・個性・資格を生かせなかった」は男性3.8%・女性3.7%である。合わせても1割に届かない。
これはコールセンターに限った統計ではないが、母数が全産業である分、傾向としては安定している。仕事が自分に合うかどうかで職を離れる人より、勤務時間と人間関係で離れる人のほうが3倍近く多い。
不安の置き場所を変える
そう考えると、未経験の応募者が事前に確かめるべきは「クレームに耐えられるか」ではなく、シフトの組み方と、教える人が誰かのほうになる。前者は入ってから対処法を覚えられるが、後者は入ってからでは変えられない。
クレーム応対そのものは、手順として学べる範囲が広い。基本の流れはクレーム対応のコツにまとめている。
応募前に確認する4点
ここまでの数字を、そのまま確認項目に置き換えられる。
順番に見るとこうなる
- 研修の担当者が専任かどうか。専任トレーナーがいる会社は52.9%、専任QC・QA担当者がいる会社は45.6%。いない場合はSVが兼任し、そのSVは平均8.93人を抱えている。
- 扱うチャネル。電話95.6%に対してeメール80.9%、有人チャット55.9%。テキスト業務が増えている企業は45.2%ある。入社後に何を覚えるかが変わる。
- 受信か発信か。インバウンド中心が85.1%。発信中心の求人は数値目標と歩合が伴いやすい。
- シフトと休日の決まり方。辞めた理由の上位が労働条件である以上、ここを曖昧にしたまま入らない。
4点のうち1番目と4番目は、求人票に書かれていないことが多い。面接で聞くしかないが、聞かれて困る会社かどうかも同時にわかる。
未経験可の求人だけを絞って見るなら、未経験歓迎の受付・コールセンター求人特集からたどれる。
よくある質問
コールセンターは本当に未経験でも採用されますか
CCAJの2025年度調査(回答68社)では、採用について答えた67社の82.1%が「苦労している」「やや苦労している」と回答しています。オペレーターの不足感も66社中48社(72.7%)で、「過剰気味」と答えた企業はゼロでした。経験者だけで枠を埋められる状況ではありません。
研修はどのくらいの期間がありますか
研修期間そのものを集計した公的統計はありません。ただしCCAJ調査では、専任トレーナーがいる企業が68社中36社(52.9%)、いない企業が30社(44.1%)と割れています。期間の長さより、誰が教えるかで実質が変わるため、面接で担当者の体制を確認するほうが確実です。
電話が苦手でも働けますか
提供チャネルは電話が95.6%で最多ですが、eメールが80.9%、有人チャットが55.9%と続きます。テキスト業務が「昨年度より増加した」企業は62社中28社(45.2%)です。電話以外の比重が高い職場は実在します。
未経験の初任給はどのくらいですか
令和6年賃金構造基本統計調査による電話応接事務員の平均は、フルタイムで年収換算約394万円、パート・アルバイトで時給1,363円です。ただしフルタイムの平均勤続年数は7.8年、パートは5.7年なので、いずれも入社初年度の水準ではありません。求人票の時給は、研修期間中の額と本採用後の額を分けて確認してください。
最初の1ヶ月で辞める人が多いと聞きます
コールセンターに限定した1ヶ月以内の離職率を示す公的統計は見つかりません。参考になるのは令和6年雇用動向調査の離職理由で、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が女性12.8%、「職場の人間関係が好ましくなかった」が女性11.7%と上位です。「仕事の内容に興味を持てなかった」は男女とも4%前後にとどまります。
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出典
- 一般社団法人日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(対象109社/回答68社/回収率62.4%/2025年6月16日〜7月23日実施) https://ccaj.or.jp/telemarketing/doc/outsourcing_research_2025.pdf
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別の給与額・年間賞与(産業計・企業規模計10人以上)/短時間労働者 職種別1時間当たり所定内給与額 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」転職入職者が前職を辞めた理由別割合(全国約15,000事業所を抽出・令和6年1年間) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html
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