健診の受付でやることは、予約の受付、当日の受付と本人確認、検査室への案内、会計、結果表の発送。工程だけ並べると、外来のクリニックと大きく変わらない。
変わるのは、予約を入れてくる相手である。健康診断を受けるのは個人だが、実施の義務を負っているのは会社や保険者のほうだ。だから電話の向こうにいるのは、受診する本人ではなく総務担当者であることが多い。
そして義務には期限がついている。期限が同じ月に集まると、その月だけ人数が跳ね上がる。
予約を入れてくるのは、受診する本人とは限らない
健康診断は事業者の義務として実施される
労働安全衛生規則の第44条は、事業者に対し、常時使用する労働者へ1年以内ごとに1回、定期に医師による健康診断を行うことを義務づけている。第43条は労働者を雇い入れるときの健康診断を、第45条は特定の業務に常時従事する労働者への6か月以内ごとの健康診断を定めている。
義務を負うのは労働者ではなく事業者である。健診機関から見れば、契約の相手も、日程を決める相手も、費用を払う相手も企業になる。窓口で調整するのは1人分の都合ではなく、その会社の名簿の何十人分かになる。
3,358の保険者が、5,210万人分を管理している
もう一系統ある。40歳から74歳を対象とする特定健康診査は、高齢者の医療の確保に関する法律に基づいて医療保険者が実施する。
厚生労働省がまとめた2023年度の実施状況によると、集計対象の保険者は3,358。特定健康診査の対象者数は52,103,341人、受診者数は31,230,198人で、実施率は59.9%だった。
窓口に持ち込まれる受診券は、この保険者が発行したものである。受付が確認するのは保険証だけではなく、どの保険者の、どのコースの券かという情報になる。同じ待合室に、会社の定期健診で来た人と、保険者の特定健診で来た人と、全額自己負担の人間ドックで来た人が並ぶ。会計の根拠が3通りある。
繁忙期が生まれる理由は「1年以内ごとに1回」にある
一度決めた月が、そのまま翌年の期限になる
安衛則第44条の文言は「1年以内ごとに1回、定期に」である。前回から1年を超えてはいけないので、実施月を後ろへずらす余地がない。年度単位で管理している企業であれば、毎年ほぼ同じ月に、ほぼ同じ人数が来る。
雇入時の健康診断(第43条)も同じ方向に働く。入社の時期が4月に集まる会社が多ければ、その分も同じ月に乗る。健診機関の予約表は、企業ごとの実施月が積み上がった結果として埋まっていく。
実施率の目標が、年度の後半を押し上げる
特定健診の側にも押し上げる力がある。国は特定健康診査の実施率を2023年度までに70%以上とする目標を掲げていたが、実績は59.9%だった。10ポイント以上の開きがある。
達成していない保険者は、年度内に受診者を積み増そうとする。未受診者への勧奨が年度の後半に出るので、窓口はキャンセル枠の再配分と、締切前の駆け込みを同時に受けることになる。
前年度58.1%、前々年度56.5%という推移を見ると、この差は1年で埋まる幅ではない。勧奨が止まる見込みはしばらくない、と読むほうが現実に近い。
オプションの説明が、必ず窓口に回ってくる
法定項目は11。それ以外はすべて上乗せ
安衛則第44条が挙げる定期健康診断の項目は次の11である。
| # | 項目 |
|---|---|
| 1 | 既往歴及び業務歴の調査 |
| 2 | 自覚症状及び他覚症状の有無の検査 |
| 3 | 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査 |
| 4 | 胸部エックス線検査及び喀痰検査 |
| 5 | 血圧の測定 |
| 6 | 貧血検査 |
| 7 | 肝機能検査 |
| 8 | 血中脂質検査 |
| 9 | 血糖検査 |
| 10 | 尿検査 |
| 11 | 心電図検査 |
人間ドックで案内される胃部検査、腹部超音波、脳ドック、腫瘍マーカーは、この11項目の外側にある。どこまでを事業者が負担し、どこからを本人が払うのか。その線が引かれている場所を説明するのが受付の仕事になる。
健診は「療養の給付」に含まれない
費用の話がややこしいのは、健診が公的医療保険の給付対象ではないからである。健康保険法の第63条は、療養の給付を行う対象を「被保険者の疾病又は負傷に関して」と定めている。病気やけがの治療ではない健診は、ここに入らない。
窓口負担が3割になるのは、健診で見つかった所見について改めて受診したときからである。健診当日の会計に3割はない。医療機関の外来の窓口がどう動いているかはクリニック・病院受付の仕事内容にまとめてある。
がん検診を足すかどうかは、半々で割れている
厚生労働省の令和4年国民生活基礎調査によると、過去1年間に肺がん検診を受診した者の割合は男53.2%、女46.4%。過去2年間では胃がん検診が男53.7%・女43.5%、子宮頸がん検診が43.6%、乳がん検診が47.4%だった。
半数前後で割れている。受けている人と受けていない人がほぼ同数いる状態なので、オプションの説明は「毎年つけている人への確認」ではなく、その場で判断してもらう説明になる。所要時間と金額を即答できるかどうかが、窓口の力量になる。
当日の受付は、順番ではなく経路を組んでいる
11項目は同じ部屋で終わらない
身長・体重・腹囲の計測、胸部エックス線、採血、血圧、尿、心電図。項目が分かれているということは、部屋が分かれているということでもある。
外来の待合が一列の行列であるのに対し、健診の受付は複数の検査室に人を分散させる。採血で詰まっていれば先に心電図へ回す、といった判断が発生する。同じ時刻に来た10人を、10通りの順路で流すのが健診センターの受付である。
結果は5年間保存され、50人以上の事業場は報告する
安衛則第51条は、事業者に健康診断個人票を作成して5年間保存することを義務づけている。第52条は、常時50人以上の労働者を使用する事業者に対し、定期健康診断を行ったときに、項目ごとの受診者数と異常所見のあった者の数などを所轄労働基準監督署長へ報告することを求めている。
健診機関が返すのは、この報告のもとになる書類である。結果表の発送、再検査の案内、企業への一括納品。当日の受付が終わったあとに、事務としての作業がもう一山ある。医療機関での呼び名と業務範囲の対応は医療事務・医療クラーク・医療秘書・受付の違いで整理している。
給料は職種区分の側から見るしかない
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査に「健診センターの受付」という区分はない。担当範囲に応じて、次のいずれかとして集計される。
| 統計上の職種 | 正社員の年収換算 | パートの時給 | 平均勤続 |
|---|---|---|---|
| 受付・案内事務員 | 356万円 | 1,231円 | 8.6年 |
| その他の保健医療サービス職業従事者 | 323万円 | 1,281円 | 6.4年 |
| 会計事務従事者 | 509万円 | 1,593円 | 12.7年 |
いずれも全産業の平均で、健診機関に限った数字ではない。読み取れるのは、窓口で閉じる範囲より請求まで持つ範囲のほうが評価が高く出るという方向だけである。
健診は繁忙期と閑散期の差が大きい業務なので、求人票では雇用形態と勤務日数の書き方を見ておきたい。繁忙月だけの短期募集と、通年のパート枠では、覚える範囲がまったく違う。勤務形態や時間帯から見るなら医療・クリニック受付の求人ページにまとまっている。
よくある質問
医療の資格がないと働けませんか
受付・案内の範囲であれば資格要件はない。ただし採血や測定は有資格者の業務であり、無資格の受付が担当することはない。担当するのは予約管理、受付、案内、会計、結果表の発送になる。
忙しいのはいつですか
企業の定期健康診断の実施月に連動する。安衛則第44条が「1年以内ごとに1回」と定めている以上、各社の実施月は毎年ほぼ固定される。加えて特定健診の実施率が目標の70%に対して59.9%にとどまっているため、年度後半に保険者からの受診勧奨が重なる。
クリニックの受付とどちらが大変ですか
負荷のかかり方が違う。外来は1人ずつ順番に処理するが、健診は同じ時刻に来た複数の受診者を別々の検査室へ振り分ける。判断の回数は健診のほうが多く、1件あたりの説明時間は外来のほうが長い。
人間ドックの料金はなぜ高いのですか
健康保険法第63条の療養の給付が「疾病又は負傷に関して」行われるものであり、健診はその対象に入らないためである。保険が効かない分、費用は事業者・保険者の負担か、本人の自己負担になる。
パート勤務でも続けやすいですか
短時間労働者の受付・案内事務員は8万4,580人で、一般労働者8万4,880人とほぼ同数である。約半分がパート枠で回っている職種なので、短時間から入る道はある。繁忙月に勤務日数が増える契約になっていないかは、事前に確認したい。
次に読む
出典
- 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第43条・第44条・第45条・第51条・第52条 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 厚生労働省「2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況について」(集計対象3,358保険者/特定健診 対象者52,103,341人・受診者31,230,198人・実施率59.9%/特定保健指導 実施率27.6%)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001492020.pdf
- 健康保険法(大正11年法律第70号)第63条(療養の給付) https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
- 厚生労働省「令和4年 国民生活基礎調査の概況」(がん検診の受診状況/過去1年間の肺がん検診 男53.2%・女46.4% ほか)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別の給与額/短時間労働者 職種別1時間当たり所定内給与額(企業規模計10人以上・産業計)https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
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