コールセンターの「あるある」は、会社が違っても内容がよく似ている。
これは偶然ではない。同じ設計の職場が全国に並んでいるからだ。人の配置、業務の受け方、評価の測り方が似ていれば、そこで起きる出来事も似る。
日本コンタクトセンター協会(CCAJ)が2025年度に実施したコンタクトセンター企業実態調査は、コールセンターの受託企業109社を対象に68社が回答したものである。この調査を読むと、現場で「あるある」として語られる場面の多くが、設計から予測できる範囲に収まっていることがわかる。
つまり、多くの「あるある」は自分の職場が特別なわけでも、自分の要領が悪いわけでもない。以下、代表的なものを構造の側から開いていく。
「あるある」が全国で似ているのは、センターの設計が似ているから
先に、なぜ似た話が繰り返されるのかを押さえておきたい。
68社の調査が示す共通の骨格
CCAJ調査によると、回答68社のすべてが「センター運営」を受託している。受託内容は「カスタマーサポート」64社(94.1%)、「問い合わせ受付」61社(89.7%)、「受注センター」47社(69.1%)と続く。
電話業務のうち受信中心が非公開を除く67社の85.1%、相手が個人であるものが同じく70.1%を占める。受託の形も、電話の向きも、相手の属性も、業界全体で一方向に偏っている。この条件下で人を配置すれば、出てくる現象は自然と揃う。
個人の問題として語られやすい理由
一方で、その設計は現場からは見えにくい。目に入るのは自分の席の周囲だけで、SVの担当人数も、会社の採用状況も、数字としては渡されない。
そこで起きたことは「うちのセンターはこうだ」という形で語られ、あるあるになる。設計の話が個人の体験談の形をとる。これが、同じ話が全国で反復される仕組みである。
聞きたいときに、聞ける人がいない
最も広く共有されているあるあるは、質問の相手が捕まらないという場面だろう。これは運ではなく、配置の数字で説明がつく。
SV1人あたり8.93人という距離
CCAJ調査によると、スーパーバイザー(SV)1人が受け持つコミュニケーターの数は平均8.93人である。2023年度8.54人、2024年度8.83人と3年続けて増えている。
分布を見ると、偏りがさらにはっきりする。
| SV1人あたりの人数 | 企業数 | 比率(非公開を除く60社) |
|---|---|---|
| 1〜5人 | 10社 | 16.7% |
| 6〜9人 | 25社 | 41.7% |
| 10〜14人 | 18社 | 30.0% |
| 15〜19人 | 5社 | 8.3% |
| 20〜29人 | 2社 | 3.3% |
下3段を足すと、SV1人が10人以上を見ている企業が25社になる。開示のあった60社の41.7%である。1人のSVが10人を担当していれば、同時に3人が手を挙げた時点で待ちが発生する。質問できないのは、質問した人の側の問題ではない。
専任トレーナーがいる会社は52.9%
聞ける相手はSVだけとは限らない。ただし、その体制も会社によって分かれる。
同調査で専任トレーナーがいる企業は36社(回答68社の52.9%)、専任のQC・QA担当者がいる企業は31社(45.6%)だった。半数弱の会社には、教育や品質管理を専門に担う人がいない。その場合、教える役割もSVが兼務することになり、8.93人という数字がさらに重くなる。
対処は、聞く相手を分散させることに寄る
配置が変わらない以上、聞き方の側を変えるしかない。質問をためて一度に聞く、隣席の先輩に聞ける関係を作る、マニュアルの参照場所を先に覚える。いずれも「SVを待たない経路」を増やす動きである。
SVの側も同じ構造の中にいる。不足感が最も高いのはSV職で、非公開2社を除く66社の87.9%が不足を訴えている。担当を減らせる状態ではない。SVの仕事の中身はコールセンターSVの仕事内容と年収で扱った。
人が入っては、いつの間にか見なくなる
新人研修が毎月あり、少し前に入った人が気づくといない。この場面も、離職の多さだけでは説明が足りない。
採用に苦労している企業が82.1%
CCAJ調査で採用活動の状況を答えた67社のうち、「苦労している」26社と「やや苦労している」29社を合わせた45社、82.1%が採用難を訴えている。オペレーターの不足感は72.7%、SVは87.9%、マネージャー・センター長は54.5%。いずれの職種でも「過剰気味である」と答えた企業はゼロだった。
採用が常時走っているのは、辞める人を埋めるためだけではない。そもそも定員に届いていないからである。新人が絶えないという印象は、離職率より採用の未達を映している。
全体は減っているのに、正社員は増えている
数字はもう一段複雑である。同調査で2024年度と比較できた50社の総従業員数は26万9,560人から26万4,151人へ5,409人減った。ところが比較可能な47社の正規社員数は3万8,916人から4万977人へ2,061人増えている。
人数の総量は減り、正社員だけが増えた。この動きは、頭数をそろえる方針から、残る人を厚くする方針へ重心が移っていることを示している。総従業員に占める正規社員が5割未満の企業は、非公開12社を除く56社の67.9%を占めるので、置き換えはまだ途中の段階にある。
対処は、時期の意味を読み替えること
新人が多い時期は、教育の手が薄くなる時期でもある。SVの担当人数は変わらないまま、経験の浅い人の比率が上がるからだ。
裏を返せば、その時期に落ち着いて業務を回せる人は目立つ。定着の実態はコールセンターの離職率は本当に9割かで公的統計と突き合わせている。
隣の島が、まったく別の仕事をしている
同じフロアなのに、隣のチームの会話がまるで理解できない。これも設計から出てくる。
受託内容とクライアント業種の幅
CCAJ調査の受託内容は、上位3つのほかにも幅広く分布している。
| 受託内容 | 企業数 | 比率(回答68社) |
|---|---|---|
| カスタマーサポート | 64社 | 94.1% |
| 問い合わせ受付 | 61社 | 89.7% |
| 受注センター | 47社 | 69.1% |
| 事務局業務 | 44社 | 64.7% |
| 営業サポート | 38社 | 55.9% |
| 商品勧誘等 | 37社 | 54.4% |
| 市場調査 | 27社 | 39.7% |
| 来場促進 | 20社 | 29.4% |
上位3つはほとんどの会社が受けているが、下位の項目でも半数前後の会社が手掛けている。1社が抱えている業務の種類が、そもそも多い。
クライアントの業種はさらに広い。「サービス業」50社(73.5%)、「通信販売業」44社(64.7%)、「金融・保険業」43社(63.2%)、「流通・小売業」41社(60.3%)、「通信業」38社(55.9%)、「電力・ガス・水道」38社(55.9%)、「地方自治体」33社(48.5%)と分布している。制度の説明が求められる業種と、商品の説明で足りる業種が、同じ会社の中に同居している。
「センター運営」は全社が受託している
受託業務の内訳では、「センター運営」を68社すべてが受託しており、「スタッフ派遣」37社(54.4%)、「コンサルティング」31社(45.6%)が続く。
受託企業は複数のクライアントの案件を同時に抱える。同じ会社に所属していても、金融の照会を受ける島と、通販の受注を取る島では、覚える内容も評価される指標も違う。「コールセンターの仕事」という言い方が、社内ですら通じないことがあるのはこのためだ。
対処は、案件が変わる前提を置くこと
案件には期限がある。クライアントとの契約が終われば、別の案件へ移る。いま覚えている商品知識は、そのときリセットされる。
だから、案件固有の知識と、どの案件でも使える技能を分けて意識しておきたい。後者は応対の型、システム操作、後処理の速さといった部分に集まる。
忙しさが、自分の努力と無関係に決まる
朝から鳴り止まない日と、静かな日が交互に来る。この落差も、業務の性質そのものから来ている。
インバウンド85.1%という構造
CCAJ調査で電話業務のイン・アウトの比率を見ると、「インバウンドのみ」と「インバウンドの方が多い」を合わせて57社、非公開を除く67社の85.1%を占めた。コールの対象も「B to Cのみ」「B to Cの方が多い」で47社、同じく67社の70.1%である。
受信業務では、入電の量を現場が決められない。テレビで紹介された、障害が起きた、料金改定が告知された。外側の事情がそのまま自分の1日を決める。忙しさが個人の裁量の外にあるという点は、この職種のかなり本質的な性格である。
評価は個人単位で測られる
一方で、評価は個人ごとに集計される。応対件数、1件あたりの通話時間、後処理時間。量が外から降ってくるのに、結果は個人の数字として残る。この非対称が、あるあるの多くを生んでいる。
さらに近年は、その評価に機械が入り始めた。同調査では生成AIをセンター運営の実務で運用している企業が33社(48.5%)にのぼり、PoC段階や社内検証を含めた55社での活用方法は「応対内容の要約」74.5%、「メール文章の作成」63.6%、「FAQの自動生成」61.8%と続く。そのなかに「コミュニケーターの評価(モニタリングの採点)」49.1%が入っている。
対処は、数字の読み方を変えること
件数のように外から決まる数字と、後処理時間のように自分で動かせる数字は、性質が違う。前者で自分を評価すると、忙しい日と暇な日で自己評価が上下する。
見るなら後者のほうである。採点が項目化されているセンターでは、何が測られているかを先に聞いておくと、努力の向け先が定まる。
切っていいのか分からない電話がある
強い言葉が続く通話をどこで終えてよいのか。判断が現場に降りてくる場面は、体制の未整備と直結している。
基準がある会社は49.3%にとどまる
CCAJ調査はカスタマーハラスメント対策の整備状況を6項目で尋ねている。未回答を除く67社での「既に対応済み」は次の通りだった。
| 対策項目 | 対応済みの企業 | 比率 |
|---|---|---|
| 社内報告・連携体制の整備 | 35社 | 52.2% |
| 基準の明確化 | 33社 | 49.3% |
| 対応方針または行動基準の策定・公開 | 30社 | 44.8% |
| 相談窓口の設置 | 29社 | 43.3% |
| 対応マニュアルの策定 | 27社 | 40.3% |
| 警察通報基準・規則の策定 | 21社 | 31.3% |
半数を超えたのは最上段の1項目だけである。どこからがカスタマーハラスメントかを明確にしている会社は49.3%、警察への通報基準まで決めている会社は31.3%にとどまる。
基準がなければ、判断は個人に降りる
この数字を読み替えると、半数の会社では「切ってよいかどうか」を通話中の本人が決めていることになる。判断の責任が現場に残ったまま、結果だけが評価に乗る。
「あの電話は自分の対応が悪かったのか」と後から考え込む場面の多くは、基準の不在に由来している。個人の資質の問題として引き受ける必要はない。実務的な進め方はクレーム対応のコツにまとめた。
対処は、基準の所在を先に確認すること
入社時や配属時に、エスカレーションの条件と通話終了の条件を確認しておく。文書があるなら手元に置く。ないと言われたなら、それ自体が把握しておくべき情報である。
体制が整った会社を選び直すという判断もある。受信業務の求人条件を見比べるなら、カスタマーサポート(受信)の求人で業務範囲の書かれ方を確認しておくと、比較の軸ができる。
長く続いている人は、何が違うのか
ここまでの5つは、いずれも個人の努力では動かない構造だった。では、続く人と続かない人の差はどこにあるのか。
平均勤続7.8年という時間軸
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査によると、コールセンターのオペレーターを含む職種区分「電話応接事務員」のフルタイム労働者は17万9,540人、平均勤続年数は7.8年である。パート・アルバイトは9万7,730人、平均勤続5.7年、平均年齢50.2歳。
短期で入れ替わり続ける職種という印象とは、数字が合っていない。長く続けている人がまとまった数いる。
続いている人が置いている前提
上で見た構造を並べ直すと、続く条件は3つに整理できる。
- 待ち時間を前提に動く。SVが捕まらないことを異常と考えず、聞かずに進める範囲を広げる。
- 外から決まる数字で自己評価しない。入電量は自分の外にある。
- 判断の責任を一人で引き受けない。基準がない部分は、会社側の未整備として扱う。
3つとも、努力の量ではなく、負荷の置き場所の話である。センターの設計を知っていれば、自分の問題として抱え込む範囲が狭くなる。心身の消耗を防ぐ具体的な手当てはコールセンターで病む前にできることで扱っている。
職場の側で変えられる部分もある
同じ業界でも、SVの担当人数、専任トレーナーの有無、カスハラ基準の整備状況は会社ごとに違う。ここまで見た数字は、すべて求人票や面接で確認できる項目に対応している。
「あるある」を我慢の対象として扱うのか、職場選びの判定基準として扱うのか。同じ現象でも、扱い方によってその後が変わる。
よくある質問
コールセンターのあるあるはどこも同じですか
受託内容と電話の向きが業界全体で偏っているため、現象は似やすい。CCAJの2025年度調査では、回答68社のすべてがセンター運営を受託し、受信中心の企業が非公開を除く67社の85.1%を占める。一方でSVの担当人数や教育体制は会社ごとに差があり、負荷の重さはその部分で分かれる。
SVがなかなか捕まらないのは普通ですか
CCAJ調査ではSV1人あたりのコミュニケーター数が平均8.93人で、10人以上を担当している企業が非公開を除く60社のうち25社ある。3年連続で増加しており、待ちが発生するのは配置上の必然といえる。SV職の不足感は87.9%と全職種で最も高い。
新人がすぐ辞めていくように見えるのはなぜですか
離職だけが理由ではない。同調査では採用に苦労している企業が回答67社中45社(82.1%)、オペレーターの不足感がある企業が66社中48社(72.7%)で、定員に届いていない状態が続いている。採用が常に走っているため、新人の入れ替わりが実際より多く見えやすい。
クレームで電話を切ってもいいですか
会社の基準による。CCAJ調査でカスタマーハラスメントの「基準の明確化」に対応済みの企業は67社中33社(49.3%)、「警察通報基準・規則の策定」は21社(31.3%)にとどまる。基準がある会社ではそれに従い、ない会社ではSVへのエスカレーションが実質的な判断の場になる。
あるあるが辛くなったらどうすればいいですか
負荷の出どころが構造なのか自分の作業なのかを切り分けたい。入電量やSVの担当人数は個人では動かせない。一方で後処理時間や質問のタイミングは自分で調整できる。前者に由来する消耗を努力で埋めようとすると持たないため、職場を変える判断も選択肢に入る。
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出典
- 一般社団法人日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(対象109社・回答68社・回収率62.4%・2025年6月16日〜7月23日実施)
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計・企業規模計10人以上)/短時間労働者 職種別1時間当たり所定内給与額
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