マンションコンシェルジュは、エントランス脇のカウンターに立ち、居住者の取次と受付、宅配便やクリーニングの預かり、共用施設の予約、タクシーの手配などを担う。
求人サイトでは管理員の募集と並んで出てくる。ただ、この2つは同じ仕事の呼び名違いではない。国土交通省が定める「マンション標準管理委託契約書」を開くと、管理員が担う業務は6項目に明記されていて、そこに宅配やクリーニングの取次は入っていない。
つまりコンシェルジュ業務は、標準の管理員業務の外側にある。この位置関係が、求人ごとに業務内容がばらつく理由でもある。
コンシェルジュは管理員と同じ職種ではない
標準契約書の「受付等の業務」は6項目しかない
国土交通省のマンション標準管理委託契約書は、管理事務を事務管理業務・管理員業務・清掃業務・建物設備管理業務の4つに分けている。このうち別表第2の管理員業務は、受付等の業務・点検業務・立会業務・報告連絡業務の4区分で構成される。
そして「受付等の業務」として挙げられているのは、管理組合が定める各種使用申込の受理と報告、組合員等異動届出書の受理と報告、利害関係人に対する管理規約等の閲覧、共用部分の鍵の管理と貸出し、管理用備品の在庫管理、引越業者等に対する指示の6つである。
いずれも管理組合の事務に紐づく業務で、居住者個人へのサービスは含まれていない。宅配便の預かりも、クリーニングの取次も、タクシーの手配も、この6項目のどこにも該当しない。
だから物件ごとに業務がまったく違う
コンシェルジュ業務が標準契約書の枠外にあるということは、管理組合と管理会社が個別に合意して初めて発生するということでもある。何を、どこまで、何時から何時まで担うかは、マンションごとに決められている。
その結果、同じ「マンションコンシェルジュ」の求人でも、実態は大きく振れる。宅配の受け渡しとゲストルームの予約だけを担う配置もあれば、共用施設の運営、来訪者管理、居住者からの要望の一次受けまで含む配置もある。求人票の職種名では業務量が読めないのは、標準の型がないためだ。
応募時に見るべきは職種名ではなく、業務欄に何項目書かれているかである。
宅配の取次は、設備の隙間を人が埋める仕事になっている
宅配ボックスは57.5%に設置されている
| 宅配ボックスの設置状況 | 割合 |
|---|---|
| 竣工当初から設置されている | 49.2% |
| 後から設置した | 8.2% |
| 設置あり(計) | 57.5% |
| 設置の検討はしていない | 25.3% |
| 設置を検討したが設置できなかった | 5.9% |
国土交通省の令和5年度マンション総合調査(管理組合向け調査・N=1,589)による。半数を超えるマンションに宅配ボックスがある。
ただし台数が戸数に届いていない
設置台数を見ると、話が変わる。同調査で台数を回答した843の管理組合のうち、最も多いのは「5〜9台」の36.1%、次いで「10〜14台」の34.9%だった。20台以上は15.2%にとどまる。
数十戸から数百戸のマンションに、ボックスは10台前後。在宅率の低い平日夕方には埋まるという計算になる。ボックスに入らない大型の荷物や、生鮮品も残る。
さらに置き配のルールも整っていない。同調査で置き配の実施状況を答えた1,589の管理組合のうち、「特にルールを決めていない」が86.0%を占めた。管理規約または使用細則に置き配を規定して全面禁止としているのは2.5%である。
ルールが決まっていないということは、荷物をどこに置いてよいかの判断が現場に残るということだ。コンシェルジュが宅配便を預かる業務は、設備と規約の両方に空いた隙間を人が埋めている状態だと読める。
預かるという行為は記録の業務である
荷物を受け取る動作そのものは数十秒で終わる。実務の重さは、そのあとにある。誰宛ての何をいつ預かり、いつ誰に渡したか。冷蔵が要るものが混ざっていないか。不在が続いた荷物をいつまで置くか。
引き渡し時の確認も要る。同居家族が受け取りに来た場合、本人以外に渡してよいかの基準を持っていなければ判断できない。取次業務の中心は接客ではなく、預かり物の管理台帳である。
クリーニングやタクシーの取次には金銭が絡む
有料サービスの取次は精算の問題になる
クリーニングの取次は、衣類を預かって業者に渡し、仕上がりを受け取って居住者に返す流れになる。ここで動くのは物だけではない。料金の受け渡し、伝票の管理、紛失や仕上がり不良が出たときの一次対応が付いてくる。
タクシーの手配、宅配便の発送受付、共用施設の有料予約も同様である。金銭が動く業務では、記録の粒度がそのまま責任の範囲を決める。
対応できないことを断る場面が必ずある
コンシェルジュへの要望は、契約範囲を超えて出てくる。部屋の中の作業を頼まれる、私物の運搬を求められる、居住者間のトラブルの仲裁を求められる。
断る判断は、その場の気配りでは持ちこたえない。管理組合と管理会社が合意した業務範囲がどこまでかを、書面で把握していることが前提になる。業務範囲を知っていることが、断る根拠になる。居住者と長く顔を合わせる職種だからこそ、線の位置を先に確認しておく実務的な意味がある。
勤務形態は通勤・住込・巡回で分かれる
標準契約書が想定する3つの方式
マンション標準管理委託契約書は、管理員業務の実施態様として通勤方式・住込方式・巡回方式の3つを挙げ、契約時にどの方式で何名が従事するかを明記させている。執務場所は管理事務室とされている。
このうちコンシェルジュの募集は、ほぼ通勤方式である。エントランスのカウンターに人がいる時間帯を作ることが目的なので、居住や巡回とは設計が合わない。勤務時間は日中から夕方に置かれることが多く、宅配の集中する時間帯を含む形になる。
ホテルのフロントとは滞在期間が違う
同じ「フロントに立つ仕事」でも、ホテルは滞在が数日で終わり、相手は毎回入れ替わる。マンションは同じ人と何年も顔を合わせる。要望の履歴も、前回の対応も、次の会話に持ち越される。
この違いは向き不向きに直結する。短期の応対を積み重ねる働き方はホテルフロント・受付の仕事内容の側にあり、関係が続く前提で応対を設計するのがマンション側になる。
待遇と求人の見方
賃金の参照値は受付・案内事務員になる
| 区分 | 実額 | 平均年齢 | 勤続年数 | 労働者数 |
|---|---|---|---|---|
| フルタイム(年収換算) | 約356万円 | 42.0歳 | 8.6年 | 84,880人 |
| パート・アルバイト(時給) | 1,231円 | 50.1歳 | 6.2年 | 84,580人 |
公的統計はマンションコンシェルジュを独立した職種として集計していない。厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査で最も近いのが受付・案内事務員で、年収換算は「きまって支給する現金給与額256,500円 × 12ヶ月 + 年間賞与485,800円」で計算した。
雇用主は管理会社になる場合が多く、勤務先はその管理会社が受託しているマンションになる。就業規則も評価も管理会社側の基準で決まる。オフィスや施設の常駐受付と条件を並べて比べる段階なら常駐型の受付・総合受付の求人で勤務時間と雇用形態を指定できる。
応募前に確認したい3点
- 取次業務の範囲(宅配・クリーニング・タクシー・共用施設のどこまでか)
- カウンターの配置人数と、休憩時の交代体制
- 預かり物の管理方法(システムか手書き台帳か)
3点はいずれも1日の負荷を決める。2つ目が1名体制なら、休憩中の来訪をどう扱うかの運用が要る。3つ目が手書きなら、引き継ぎの精度が個人の書き方に左右される。共用部の来客対応という点で近い業態についてはシェアオフィス受付の会員管理と取次も参考になる。
よくある質問
コンシェルジュと管理員は何が違いますか
管理員の業務は国土交通省のマンション標準管理委託契約書に定められており、「受付等の業務」は使用申込の受理、異動届出書の受理、管理規約等の閲覧、共用部分の鍵の管理と貸出し、管理用備品の在庫管理、引越業者等への指示の6項目である。宅配やクリーニングの取次はここに含まれず、コンシェルジュ業務として個別に契約される。
未経験でも応募できますか
必須の資格はない。受付・案内事務員の平均勤続は8.6年、平均年齢は42.0歳で、資格ではなく実務で層ができている職種である。応募で読まれやすいのは接客経験より、預かり物や予約を記録として正確に扱った経験になる。
宅配の取次は大変ですか
宅配ボックスの設置率は57.5%だが、台数は5〜9台が最多(36.1%)で戸数に届かない。置き配のルールを決めていないマンションが86.0%を占めるため、ボックスに入らない荷物の扱いが現場の判断に残る。時間帯によって取次が集中する構造になっている。
クレームは多いですか
同じ居住者と長期間顔を合わせるため、要望が業務範囲を超えて出てくる場面がある。対応の可否は個人の判断ではなく、管理組合と管理会社が合意した業務範囲で決まる。着任時にその範囲を書面で確認しておくと、断る場面での負担が下がる。
夜勤はありますか
コンシェルジュの配置は日中から夕方が中心で、24時間の配置は限られる。マンション標準管理委託契約書も管理員業務の実施態様として通勤方式・住込方式・巡回方式を挙げており、コンシェルジュの募集はほぼ通勤方式になる。
次に読む
出典
- 国土交通省「マンション標準管理委託契約書」別表第2 管理員業務(1)受付等の業務・業務実施の態様(通勤方式/住込方式/巡回方式)(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001760188.pdf)
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」管理組合向け調査。宅配ボックスの設置状況(N=1,589・設置あり57.5%)、設置台数(N=843・5〜9台36.1%)、置き配の実施状況(N=1,589・特にルールを決めていない86.0%)(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000143.html)
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別・企業規模計10人以上・産業計。受付・案内事務員(一般労働者84,880人/短時間労働者84,580人)
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