調剤薬局の事務がやることは、処方箋の受付、保険資格の確認、レセプトコンピュータへの入力、会計、月初の請求。ここまでは医療機関の受付とほぼ同じ形をしている。
違いは、受け取った紙の性質にある。処方箋には使用期限があり、受け付けた回数そのものが薬局の点数区分を決め、書かれた薬が今日そこに在庫としてあるとは限らない。
求人票の「調剤薬局事務」という一語の中身は、この3つでできている。
薬局の点数は「1か月に処方箋を何回受け付けたか」で決まる
調剤基本料は受付回数と集中率の表で分岐する
厚生労働省の令和6年度診療報酬改定(調剤)によると、薬局が算定する調剤基本料は、1か月の処方箋受付回数と、特定の医療機関からの処方箋が占める割合(処方箋集中率)の組み合わせで区分される。
| 区分 | 主な条件 | 点数 |
|---|---|---|
| 調剤基本料1 | 下記以外 | 45点 |
| 調剤基本料2 | 受付回数が月2,000回超〜4,000回かつ集中率85%超 ほか | 29点 |
| 調剤基本料3イ | 同一グループで月3万5千回超〜4万回かつ集中率95%超 | 24点 |
| 調剤基本料3ロ | 同一グループで月40万回超または300店舗以上かつ集中率85%超 | 19点 |
| 特別調剤基本料A | いわゆる同一敷地内薬局 | 5点 |
令和6年度改定では、調剤基本料2の対象に「受付回数が月4,000回を超え、かつ上位3つの医療機関の集中率の合計が70%を超える薬局」が加えられた。
全国平均は月およそ1,180回
厚生労働省の令和5年度 医療費の動向によると、令和5年度の調剤の処方せん枚数(受付回数)は8.9億枚、調剤医療費は8.3兆円だった。1枚あたりに換算すると約9,300円になる。
一方、令和6年度衛生行政報告例では、令和6年度末現在の薬局数は63,203施設。前年度末の62,828施設で8.9億枚を割ると、1薬局あたり年14,167回、月におよそ1,180回になる。
区分表の下限は月1,800回超である。平均的な薬局は、そもそも調剤基本料2の入口にすら届いていない。受付回数を数えるのは、届出の根拠を作る作業でもある。事務が入力した1件が、翌年の点数区分に効いてくる。
処方箋を受け取った瞬間に、確認することが決まっている
使用期間は交付の日を含めて4日
保険医療機関及び保険医療養担当規則の第20条は、処方箋の使用期間を「交付の日を含めて四日以内」と定めている。長期の旅行など特殊な事情がある場合を除いて、5日目に持ち込まれた処方箋は受け付けられない。
同じ条文にリフィル処方箋の規定もある。医師が複数回(3回まで)の使用を認めた処方箋で、2回目以降の使用期間は、前回の投薬期間が終わる日の前後7日以内とされている。窓口では、日付を見て「今日は早すぎる」「期限を過ぎている」を判断する場面が出てくる。
お薬手帳の持参率が50%を下回ると減算される
「お薬手帳はお持ちですか」という一言は、接客のあいさつではない。
令和6年度改定の資料には、服薬管理指導料の減算要件として手帳持参患者の割合が挙げられている。前年5月1日から当年4月末日までの1年間の実績で毎年5月に判定し、直近3か月の割合が50%を上回った場合は減算の対象外になる。
窓口で手帳を確認して記録する作業が、そのまま薬局の点数を守っている。医療受付に共通する保険資格確認や会計の基礎はクリニック・病院受付の仕事内容に整理してあるので、その上に薬局固有の確認項目が乗っていると考えるとつかみやすい。
在庫の話が窓口に出てくるのは、供給が安定していないから
通常出荷は86%にとどまっている
厚生労働省の医療用医薬品供給状況報告(令和8年2月分)によると、製造販売業者が「通常出荷」と回答した品目は13,778品目で全体の86%。残る14%、2,337品目が限定出荷または供給停止である。
内訳を開くと偏りがはっきりする。
| 状況 | 品目数 | うち後発品 | 後発品の構成比 |
|---|---|---|---|
| 供給停止 | 1,103品目 | 667品目 | 60% |
| 限定出荷 | 1,234品目 | 793品目 | 64% |
止まっているものの6割前後が後発医薬品である。
その後発医薬品の割合が、加算を決めている
同じ令和6年度改定で、後発医薬品調剤体制加算は調剤数量の割合に応じて3段階に分かれる。80%以上で21点、85%以上で28点、90%以上で30点。割合を上げた薬局ほど点数が付く設計になっている。
上げたい数量割合と、止まりやすい供給。この2つが同時に走っているので、窓口には「同じ成分の別のメーカーのものに変わります」「入荷待ちなので後日お渡しします」という説明が回ってくる。事務が担当する発注や入荷確認は、倉庫の中だけで完結しない。在庫の状態がそのまま接客の内容になるのが、この職場の特徴である。
病院の医療事務と、扱うものがどう違うのか
点数表そのものが別に立っている
医療機関のレセプトが医科点数表を使うのに対し、薬局は調剤報酬点数表を使う。令和6年度改定の資料に示された構成は、調剤基本料、薬剤調製料、調剤管理料、服薬管理指導料の4本立てで、そこに地域支援体制加算や後発医薬品調剤体制加算が乗る形になっている。
薬の名前と規格、日数、用法。入力する対象が医科とは別物なので、医療事務の経験がそのまま横滑りするわけではない。
医療DX推進体制整備加算が新設された
令和6年度改定では、医療DXに対応する体制を評価する医療DX推進体制整備加算(4点・月に1回)が新設された。要件には電子処方箋やマイナ保険証の利用率が含まれる。
窓口の作業としては、資格確認端末の操作と、電子処方箋を受け付けたときの処理が加わる。呼び名と業務範囲の対応そのものは医療事務・医療クラーク・医療秘書・受付の違いで整理している。
給料は「薬局だから」では動かない
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査に「調剤薬局事務」という職種区分はない。窓口業務が中心なら受付・案内事務員、会計・請求まで持つなら会計事務従事者として集計される。
| 統計上の職種 | 正社員の年収換算 | パートの時給 | 平均勤続 |
|---|---|---|---|
| 受付・案内事務員 | 356万円 | 1,231円 | 8.6年 |
| その他の一般事務従事者 | 481万円 | 1,502円 | 11.7年 |
| 会計事務従事者 | 509万円 | 1,593円 | 12.7年 |
いずれも全産業の平均で、薬局に限った数字ではない。読み取れるのは方向だけである。窓口で閉じる範囲より、レセプトまで持つ範囲のほうが評価が高く出る。
薬局は1店舗あたりの規模が小さい。63,203施設という数は人口10万人あたり51.1施設にあたり、コンビニエンスストアと同じくらいの密度で街に散らばっている。少人数の店舗が多いぶん、事務が受付からレセプトまで通しで持つ形になりやすい。条件から絞り込むなら医療・クリニック受付の求人を探すで勤務時間や雇用形態から並べ替えられる。
よくある質問
調剤薬局事務の資格は必要ですか
必須ではない。令和6年賃金構造基本統計調査に職種区分がないことからも分かる通り、国家資格でも法定の職種でもない。ただしレセプトコンピュータへの入力を含む求人では、民間資格の学習歴が判断材料にされることはある。
薬に触れることはありますか
薬剤師の指示のもとで、薬の取りそろえや在庫の整理を担当する場合がある。調剤そのもの(薬を計り、混ぜ、分ける行為)は薬剤師の業務であり、事務が代わりに行うことはできない。
医療事務の経験は活かせますか
保険資格の確認、会計、月初の請求という流れは共通する。ただし薬局は調剤報酬点数表を使い、入力する対象も医薬品名と用法になる。共通するのは仕事の骨格で、覚え直しになるのは中身のほうだ。
忙しい時間帯はいつですか
近隣の医療機関の診療時間に連動する。処方箋の使用期間が交付の日を含めて4日以内である以上、患者は受診後すぐに来る。処方箋集中率という指標が調剤基本料の区分に使われているのは、薬局の来客が特定の医療機関の外来に強く紐づいているためである。
在庫管理まで任されますか
店舗の規模による。1薬局あたりの処方箋受付回数が月およそ1,180回という規模では、事務が発注や入荷確認まで持つ形が多い。供給停止・限定出荷が全体の14%を占める状況では、この部分の負荷が読みにくくなっている。
次に読む
出典
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(調剤)」(調剤基本料の区分・後発医薬品調剤体制加算・医療DX推進体制整備加算・手帳持参割合による減算)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001238903.pdf
- 厚生労働省「医療用医薬品供給状況報告」令和8年2月分(通常出荷13,778品目・限定出荷及び供給停止2,337品目)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/04_00003.html
- 厚生労働省「医療費の動向 令和5年度」(調剤医療費8.3兆円・処方せん枚数(受付回数)8.9億枚)https://www.mhlw.go.jp/topics/medias/year/23/index.html
- 厚生労働省「令和6(2024)年度 衛生行政報告例の概況」(令和6年度末の薬局数63,203施設・人口10万対51.1)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/24/
- 保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号)第20条第3号(処方箋の使用期間・リフィル処方箋)https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000100015
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別の給与額/短時間労働者 職種別1時間当たり所定内給与額(企業規模計10人以上・産業計)https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
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