電話に出ないカスタマーサポートの仕事は、実在する。メールとチャットだけで一日が終わる配属もある。
ただし「電話のない会社」を探すやり方だと、たいてい行き止まりになる。一般社団法人日本コンタクトセンター協会(CCAJ)の2025年度コンタクトセンター企業実態調査では、回答した68社のうち電話業務に対応している企業が95.6%を占めた。対応していないと答えた企業はゼロである。一方、有人チャットに対応しているのは55.9%、eメールは80.9%だった。
テキスト対応をしている会社は、ほぼ例外なく電話もやっている。
だとすると、電話から離れられるかどうかは、会社を選ぶ段階では決まらない。決まるのはその先、どの案件に配属されるかである。求人票のいちばん見えにくいところに、答えが置かれている。
電話は減り、テキストは増えている
数字の向きから確認しておきたい。
電話業務だけ、増加より減少のほうが多い
同調査には、前年度と比べた業務量の増減を尋ねた項目がある(回答68社)。
| 業務 | 増加した | 概ね同じ | 減少した |
|---|---|---|---|
| 電話業務 | 16社 | 27社 | 19社 |
| メールやチャット等のテキスト業務 | 28社 | 26社 | 2社 |
| チャットボット等の自動応答による業務 | 21社 | 20社 | 2社 |
三つのうち、電話だけが減少のほうに傾いている。テキスト業務は「行っていない」6社を除いた62社中28社(45.2%)が増加と答え、減少と答えたのは2社にとどまった。自動応答も同じ形で増えている。
ただし、これを「チャットの求人がこれから増える」と読むのは早い。増減を尋ねているのは業務量であって、人員配置ではない。自動応答が同時に増えている以上、テキストが増えた分がそのまま人の席になるとは限らない。
チャネルの対応率は3年でこう動いた
同調査は、提供している対応チャネルを毎年同じ形式で尋ねている。
| 対応チャネル | 2023年度 | 2024年度 | 2025年度 |
|---|---|---|---|
| 電話 | 96.9% | 95.7% | 95.6% |
| eメール | 87.5% | 82.9% | 80.9% |
| Webフォーム | 76.6% | 71.4% | 69.1% |
| FAX | 73.4% | 62.9% | 58.8% |
| 有人チャット | 46.9% | 52.9% | 55.9% |
| チャットボット | 46.9% | 40.0% | 48.5% |
| AIボイスボット | 28.1% | 27.1% | 35.3% |
| ソーシャルメディア | 42.2% | 41.4% | 32.4% |
(各年度の回答企業数は64社・70社・68社)
上がっているのは有人チャットとAIボイスボット。下がっているのはeメール、Webフォーム、FAX、そしてソーシャルメディアである。
意外なのはeメールのほうだ。8割を超える企業が対応しているのに、3年続けて比率が落ちている。同じ期間に有人チャットが9ポイント上がっていることと合わせると、テキストの中身がメールからチャットへ移りつつある、という読みが自然になる。
ソーシャルメディアの下がり方はさらに急で、3年で約10ポイント減った。SNSの運用代行とテキスト応対を同じものだと考えていると、募集の実数を読み違える。減っているチャネルである。
メールとチャットを一括りに「ノンボイス」と呼ぶ求人は多いが、この3つは同じ方向に動いていない。
「電話なし」は会社の属性ではなく案件の属性
対応チャネルの調査は、会社単位で「そのチャネルを提供しているか」を尋ねたものである。有人チャットに対応している55.9%の会社が、チャット専任の席を持っているかどうかまでは分からない。
分かるのは、電話に対応していない会社が事実上ないという一点だけである。求人票に「メール・チャット対応」と書かれていても、それは会社が持つチャネルの一つを指しているだけかもしれない。配属される案件がどのチャネルを担当しているのか、そこを確かめないと電話の有無は確定しない。
企業がテキストと自動化を進める理由は、経営課題の側に出ている
なぜチャットが増えているのか。求人側の事情ではなく、企業側が何を課題だと思っているかを見ると輪郭がはっきりする。
優先度の上位に「自動化とセルフサービス化」が並んでいる
同調査は経営課題18項目について優先度を尋ねている。「優先度が高い」と答えた企業数の上位5つがこうなる。
| 経営課題 | 優先度が高いと答えた企業 |
|---|---|
| 情報漏洩・サイバー攻撃等、情報セキュリティの強化 | 65社 |
| DXを通じた効率化・生産性向上 | 64社 |
| AI活用による自動化対応・セルフサービス化の推進 | 63社 |
| 不正防止や組織不全等、ガバナンス・コンプライアンスの強化 | 62社 |
| 人件費・物価高騰等、コスト増加への対応 | 62社 |
68社中63社が、自動化とセルフサービス化を高い優先度の課題として挙げた。セキュリティとDXに次ぐ3番目で、実質的に横並びである。
優先度は高いのに、上位5項目で最も着手が遅れている
同じ5項目の対応状況を見ると、様子が変わる。
AI活用による自動化対応は「着手している」45社に対し、「検討中」21社、「着手していない」2社。未着手の合計23社は、上位5項目の中で最も多い。情報セキュリティの強化は60社、ガバナンス・コンプライアンスの強化は61社がすでに着手済みである。
やりたいが、まだできていない。この状態が求人にそのまま出ている。自動化が完了した現場に人の席は要らない。完了していない現場では、人がテキストを書いている。いま募集がかかっているのは後者である。
生成AIはすでに実務に入っている
先の話ではない。同調査で生成AIの活用状況を尋ねたところ、「センター運営の実務で運用している」が33社(48.5%)に達した。PoC段階の20社、テスト環境での検証22社、情報収集段階の11社を含めると、何らかの形で関わっている企業は55社になる。活用していないと答えたのは2社(2.9%)だけだった。
半数近くの会社が、すでに実務で動かしている。この55社が何に使っているかを見ると、テキスト対応の仕事の中身が変わりはじめている理由が分かる。
テキスト対応の仕事は「書く」から「直す」へ寄りはじめている
生成AIの使い道は、上位がすべてテキストを作る作業
活用方法を尋ねた項目(複数回答・55社)の結果がこれである。
| 活用方法 | 割合 |
|---|---|
| 応対内容の要約 | 74.5% |
| メール文章の作成 | 63.6% |
| FAQの自動生成 | 61.8% |
| コミュニケーターの回答支援(回答候補の提示等) | 58.2% |
| レポートの作成 | 56.4% |
| チャットボットによる自動化対応 | 52.7% |
| ボイスボットによる自動化対応 | 49.1% |
| コミュニケーター等のトレーニング | 49.1% |
上位3つは、応対の記録を要約する、メールの文面を作る、FAQを作る。どれも文章を生成する作業である。チャットボットによる自動化(52.7%)より、人が書く作業の支援のほうが先に広がっている。
回答支援58.2%は「探す時間」が消えるという意味
4番目の「コミュニケーターの回答支援」は、応対中に回答候補を出す使い方を指す。58.2%は半数を超えている。
テキスト対応で時間を食うのは、文章を打ち込む作業そのものより、社内のマニュアルやFAQから正しい答えを探す作業のほうである。そこに候補が自動で出てくる職場と、出てこない職場がある。同じ「チャット対応」という求人名でも、一日の中身はこの一点でかなり違う。
残るのは、下書きを疑う判断
メール文章の作成に63.6%が生成AIを使っている段階で、求められる文章力の中身は動いている。白紙から書き起こす力より、出てきた文面が今回の相手と用件に合っているかを判定する力のほうが効く。
顧客が怒っているのか、急いでいるのか、そもそも質問を取り違えていないか。生成された文面はそこを外していても、日本語としては整って見える。整って見えるものを疑うのは、白紙から書くより難しい作業である。
文章力に自信がないから応募をためらう、という考え方は、この構造の中では少しずれている。問われているのは作文の速さではない。
電話とテキストで、実際に何が違うのか
同時に何件持つかを集計した統計はない
チャット対応の説明として「1人で3件、4件を同時に持つ」という言い方をよく見かける。この数字を裏づける公的統計や業界統計は、探した範囲では見当たらない。CCAJ調査にも同時対応件数の項目はない。
数字が確認できない以上、ここは求人票と面接で個別に確かめるしかない。同時に持つ件数は、扱う商材の複雑さと、回答支援の仕組みがあるかどうかで変わる。応募先に直接尋ねるほうが、相場を調べるより確実である。
相手の7割は個人で、用件は選べない
チャネルが変わっても、変わらない部分がある。
同調査で電話業務のコール対象を尋ねた項目では、「B to Cのみ」4社と「B to Cの方が多い」43社を合わせた47社が、非公開を除く67社の70.1%を占めた。イン・アウトの比率でも、インバウンド中心が57社で85.1%である。センター業務の受託内容は「カスタマーサポート」64社(94.1%)、「問い合わせ受付」61社(89.7%)が上位2つだった。
相手は個人で、用件を持ってくるのは相手側。この構造はテキストでも同じである。届いた問い合わせを選ぶことはできない。受信中心の働き方そのものについてはインバウンドとアウトバウンドの違いで整理している。
電話が苦手だからテキスト、という選び方の限界
声や話し方に不安があってテキスト対応を探す人は多い。その動機自体は、この職種の実態と噛み合っている。
ただ、テキストになっても消えないものが2つある。クレームと、判断の必要性である。自動応答が処理できるのは定型の問い合わせで、人に回ってくるのは定型から外れたものになる。自動化が進むほど、この偏りは強くなる。
クレームの受け止め方が会社としてどこまで整っているかは、同調査のカスタマーハラスメント対策の項目に出ている。「既に対応している」と答えた企業が半数を超えたのは、5項目のうち「社内報告・連携体制の整備」の35社だけだった。基準の明確化は33社、対応マニュアルの策定にいたっては27社にとどまる。報告のルートはあるが、現場が使う手順書はまだ半数に届いていない、という段階である。
声のほうに不安がある場合は、声・滑舌に自信がない人のコールセンターで電話側の条件も見比べてから決めたほうがいい。テキスト専任の席は数が限られる。
給料はどこを基準に読めばいいのか
統計に「チャットサポート」という区分はない
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査には、テキスト対応だけを切り出した職種区分がない。コールセンターのオペレーターは「電話応接事務員」(電話交換手を含む区分)に集計される。
関連しそうな区分を並べるとこうなる。
| 職種区分 | フルタイムの年収換算 | パートの時給 | パートの平均年齢 |
|---|---|---|---|
| 電話応接事務員 | 約394万円 | 1,363円 | 50.2歳 |
| その他の一般事務従事者 | ー | 1,502円 | 48.2歳 |
| 事務用機器操作員(データ入力等) | 約356万円 | 1,241円 | 48.5歳 |
年収換算は「きまって支給する現金給与額×12ヶ月+年間賞与」で算出した。電話応接事務員のフルタイムは月29万5,200円・年間賞与39万3,700円で、平均年齢43.6歳・勤続7.8年である。
テキスト専任だから安い、という根拠はない
3つの区分を見て分かるのは、テキスト中心の事務職が電話応接事務員より一律に低いわけではないという点である。パートの時給では、その他の一般事務従事者が1,502円と最も高い。
同じ会社の中でチャット専任の時給が電話より低く設定される例はありうるが、それを職種全体の傾向として示すデータはない。求人票の水準を判断するなら、電話応接事務員の1,363円と394万円を基準線に置いて、そこから上下どちらに離れているかを見るのが現実的である。給与の内訳はコールセンターの年収・給料で分解している。
席の多くは非正規である
CCAJ調査の従業員数の項目も合わせて見ておきたい。総従業員数に占める正規社員が5割未満だと答えた企業は38社で、非公開12社を除く56社の67.9%を占めた。回答企業の総従業員数の合計は27万4,180人である。
3社に2社は、働く人の半数以上が正規社員以外という構成になっている。テキスト対応の求人が時給表示で出てくることが多いのは、この構成の反映である。年収で考えるか時給で考えるかは、職種ではなく席の種類で決まる。
在宅にできるかどうかも、チャネルでは決まらない
テキスト対応なら在宅、という発想も途中で止まる。
同調査で在宅オペレーションを「既に実施している」と答えたのは、非公開を除く65社中39社で60%。実施理由の最多は「働き方の多様化のため」で39社中33社(84.6%)、次いで「BCP対策のため」24社(61.5%)だった。
一方、「実施予定はない」と答えた22社の理由はこうなっている。
| 実施しない理由 | 社数 | 割合 |
|---|---|---|
| セキュリティ上の問題 | 18社 | 81.8% |
| クライアントの要望 | 12社 | 54.5% |
| 労務管理上の問題 | 11社 | 50.0% |
| 品質管理上の問題 | 10社 | 45.5% |
上位2つは、どちらも社内の設備投資では解決しない。扱う情報の性質と、発注元の方針である。金融や個人情報を扱う案件は、チャットであっても在宅にならない。
在宅を条件にするなら、チャネルではなく案件の業種を見たほうが早い。実態は在宅コールセンターの始め方にまとめている。
求人票で確認する4点
ここまでの内容を、応募前に確かめられる形にするとこうなる。
- 配属される案件のチャネル構成。会社としてチャットに対応していることと、自分がチャット専任になることは別である。電話の有無を確定させたいなら、案件単位で聞く。
- 回答支援やFAQ自動生成の仕組みがあるか。生成AIの回答支援は55社中58.2%で導入されている。ここがある職場とない職場で、覚える量と検索にかかる時間が変わる。
- 同時対応の件数。相場のデータがないので、応募先に直接尋ねるしかない。数字で答えられない場合は、そもそも設計されていない可能性がある。
- 案件の業種。在宅の可否も、扱う情報の機微さも、ここでほぼ決まる。
このうち1番目を飛ばすと、あとの3つを聞いても意味が薄い。案件が特定できていないと、答えは「会社としては対応しています」で止まってしまう。
条件を絞って探す場合はカスタマーサポート(受信)の求人から、勤務形態や雇用形態で並べ替えて確認できる。
よくある質問
電話をまったく取らないカスタマーサポートの求人はありますか
案件としては存在する。ただしCCAJ調査で電話業務に対応していない企業はゼロだったので、会社単位で「電話なし」を探しても見つからない。求人票で確認するのは、会社のチャネル構成ではなく、配属先の案件が担当するチャネルである。
メールとチャットでは、どちらの求人が多いですか
会社単位の対応率ではeメールが80.9%、有人チャットが55.9%でメールのほうが多い。ただしeメールは3年連続で比率が下がり、有人チャットは3年連続で上がっている。方向としてはチャットが伸びている。
未経験からチャット対応に応募できますか
CCAJ調査では採用に苦労している企業が67社中45社(82.1%)に達しており、入り口は広い状態にある。ただしテキスト専任の枠が未経験に開かれているかは会社によって差がある。研修の流れはコールセンター未経験デビューの流れを参照してほしい。
タイピングはどのくらい速ければいいですか
必要な速度を示した公的な基準はない。生成AIをメール文章の作成に使っている企業が55社中63.6%ある状況では、入力速度より、出てきた文面の適否を判断する力のほうが効く場面が増えている。
チャット対応はAIに置き換わりますか
チャットボットによる自動化に生成AIを使っている企業は55社中52.7%ある。定型の問い合わせから順に自動化される方向は動いていない。一方で自動化対応を経営課題に挙げた63社のうち、着手済みは45社で、23社は未着手のままである。置き換えは進むが、速度は会社によって大きく違う。
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出典
- 一般社団法人日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(対象109社・回答68社・回収率62.4%・2025年6月16日〜7月23日実施)https://ccaj.or.jp/telemarketing/doc/outsourcing_research_2025.pdf
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計・企業規模計10人以上)/短時間労働者 職種別1時間当たり所定内給与額 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
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