コールセンターがきついと言われるとき、その原因はたいてい電話そのものに置かれる。
ところが統計を当てると、電話は上位に来ない。厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査(実態調査)では、強いストレスを感じる事柄がある労働者にその内容を尋ねている。全産業の結果で「顧客、取引先等からのクレーム」は20.7%で5番目である。1位は「仕事の量」の43.2%だった。
コールセンター単独の集計ではないので、そのまま当てはめるわけにはいかない。それでも、電話応対の現場で感じる「きつい」が、実は電話以外のところから来ている可能性は考えておいたほうがいい。ここを取り違えると、職場を変えても同じことが起きる。
「きつい」は3つに割ると、対処のしようが変わる
まず、何がきついのかを言葉で分けておきたい。コールセンターで語られるきつさは、おおむね3つに収まる。
- クレームと、度を超えた要求への対応
- 応対件数や後処理時間を数値で管理されること
- 判断に迷ったときに聞ける相手がいないこと
この3つは、辞めれば消えるかどうかがそれぞれ違う。だから最初に、自分がどれで消耗しているのかを決める必要がある。
ストレスの内訳は、就業形態で入れ替わる
同じ調査で就業形態別に見ると、様子がかなり変わる。強いストレスを感じる事柄があると答えた割合は、正社員74.6%、契約社員73.0%、派遣労働者54.1%、パートタイム労働者43.5%だった。
内容の順位も入れ替わる。派遣労働者では「雇用の安定性」が54.7%で突出して1位になる。契約社員では「仕事の質」39.2%と「会社の将来性」38.8%が、全体の26.4%・22.2%を大きく上回る。パートタイム労働者では「顧客、取引先等からのクレーム」が26.6%と、全体の20.7%を超える。
この数字は、「きつい」の中身が働き方によって別物になっていることを示している。派遣で働いていてきついなら、その正体が電話ではなく契約の切れ目にある可能性がある。
コールセンターは、この分岐がそのまま効く職種である
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査では、コールセンターのオペレーターが含まれる「電話応接事務員」の労働者数は、フルタイム17万9,540人、短時間労働者9万7,730人。合計27万7,270人のうち35.2%が短時間勤務にあたる。
さらにCCAJ調査では、派遣を何らかの形で活用している企業が59社、88.1%に達している。
つまりコールセンターには、パート層と派遣層が相当数いる。上の調査でこの2つの層のストレス内容が全体と違う以上、業界全体の平均像で自分のきつさを説明しようとすると外れる。
| 就業形態 | 強いストレスがある | 内容の1位 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 正社員 | 74.6% | 仕事の量 | 45.0% |
| 契約社員 | 73.0% | 仕事の量 | 47.0% |
| 派遣労働者 | 54.1% | 雇用の安定性 | 54.7% |
| パートタイム労働者 | 43.5% | 仕事の失敗、責任の発生等 | 32.0% |
数字は令和6年労働安全衛生調査の個人調査(有効回答8,596人・有効回答率46.4%)による。なお令和6年調査は設問の形式が前年から変わっているため、前年との増減としては読めない。
正体1:クレームは、2026年10月から会社側の義務になる
クレーム対応のきつさは、長いあいだ個人の耐性の問題として扱われてきた。この前提が、制度の側から変わる。
改正労働施策総合推進法が施行される
改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメントの防止措置が事業主の義務となる。施行は令和8年10月1日である。
厚生労働省の資料によると、職場におけるカスタマーハラスメントとは、①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもので、①から③をすべて満たすものを指す。電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれる。
社会通念上許容される範囲を超えた言動の例として、要求の内容の側では「そもそも要求に理由がない、又は商品・サービス等と全く関係のない要求」「対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求」「不当な損害賠償要求」が、手段の側では「精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)」「威圧的な言動」「継続的、執拗な言動」が挙げられている。
コールセンターの現場で日常的に起きていることが、そのまま並んでいる。
会社が講じなければならない措置は10項目ある
義務の中身も具体的に示されている。方針の明確化と周知、対処内容の周知、相談窓口の設置と担当者の対応力の確保、事実関係の迅速な確認、被害者への配慮、再発防止、悪質な事案への対処方針の整備、相談者のプライバシー保護、相談を理由とする不利益取扱いの禁止で、あわせて10項目になる。
周知すべき対処の内容として例示されているものに、「可能な限り労働者を一人で対応させない」「犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する」が含まれている。一人で抱えて耐えることは、制度上の想定から外れている。
業界側の準備は、まだ半分に届いていない
では現場はどうか。CCAJ調査ではカスタマーハラスメント対策の6項目について、既に対応済みかを尋ねている。未回答を除く67社の結果はこうだった。
| 対策項目 | 既に対応済み | 割合 |
|---|---|---|
| 社内報告・連携体制の整備 | 35社 | 52.2% |
| 基準の明確化 | 33社 | 49.3% |
| 対応方針または行動基準の策定・公開 | 30社 | 44.8% |
| 相談窓口の設置 | 29社 | 43.3% |
| 対応マニュアルの策定 | 27社 | 40.3% |
| 警察通報基準・規則の策定 | 21社 | 31.3% |
50%を超えたのは社内報告・連携体制の整備だけである。マニュアルがある会社は4割、警察通報の基準がある会社は3割にとどまる。
同じ電話を取っていても、切ってよい基準が明文化されている職場と、担当者の判断に委ねられている職場が併存している。クレームがきついという感覚のうち、どこまでが会社の未整備によるものかは、この6項目を当てれば切り分けられる。応対そのものの手順はコールセンターのクレーム対応のコツで扱っている。
正体2:数値で管理されることのきつさは、基準の開示で変わる
コールセンターは、応対が記録され採点される職場である。件数、通話時間、後処理時間、応対品質のスコアが並ぶ。
採点する側が、人からシステムへ移りつつある
CCAJ調査によると、生成AIを「センター運営の実務で運用している」企業は33社で48.5%、PoC段階での検証が20社、テスト環境での社内検証が22社だった。「活用していない」は2社にとどまる。
実運用・検証中の55社に活用方法を尋ねた結果(複数回答)では、「応対内容の要約」が74.5%で最多、「メール文章の作成」63.6%、「FAQの自動生成」61.8%、「コミュニケーターの回答支援」58.2%と続く。そして「コミュニケーターの評価(モニタリングの採点)」が49.1%だった。
半数近いセンターで、応対の採点に生成AIが関わり始めている。
採点の納得感は、専任のQC担当がいるかで変わる
同調査では専任のQC・QA担当者の有無も尋ねている。「いる」が31社、「いない」が35社(非公開2社)で、いない側がわずかに多い。
専任がいない場合、採点はSVが通常業務の合間に行うことになる。基準が共有されないまま点数だけが返ってくる状態は、点数そのものより納得のいかなさで消耗する。
数値管理そのものは、この職種から消えない。件数と時間で管理しないと人員配置が組めないからだ。変えられるのは、基準が開示されているかどうかの側である。入る前に確認するなら、評価項目が何点満点でどう配分されているかを聞けば足りる。
正体3:SVが薄い職場では、判断を一人で抱える時間が長くなる
判断に迷う電話が来たとき、聞ける相手がいるかどうか。ここが3つめのきつさである。
SV1人あたりの担当人数は3年連続で増えている
CCAJ調査によると、スーパーバイザー1人あたりが受け持つコミュニケーターの数は次のように推移している。
| 年度 | SV1人あたりのコミュニケーター数 |
|---|---|
| 2023年度 | 8.54人 |
| 2024年度 | 8.83人 |
| 2025年度 | 8.93人 |
職種ごとの過不足では、非公開2社を除く66社のうちスーパーバイザーは58社、87.9%に不足感があった。コミュニケーター・オペレーターの72.7%より強い。どちらの職種でも「過剰気味である」と答えた企業はゼロだった。
新人を支える側の人数が、そもそも足りていない
専任トレーナーが「いる」と答えた企業は36社、「いない」は30社(非公開2社)だった。研修担当が専任でいる会社と、SVが片手間で新人を見る会社が、同じ業界の中に併存している。
SVは新人のフォローと、オペレーターが判断できない案件のエスカレーション先を兼ねる。ここが薄いと、答えを持っていない電話を保留にしたまま探す時間が延びる。相手は待っている。この時間が、件数の数字にも品質のスコアにも同時に効く。
きついと感じる瞬間が「クレームを受けた直後」ではなく「保留にして誰かを探しているとき」に集中しているなら、正体はSVの配置にある。SVの側から見た仕事の内容はコールセンターのSV・管理者へのキャリアアップにまとめた。
辞めれば消えるきつさと、辞めても消えないきつさ
3つの正体を、どこを変えれば消えるかで並べ直す。ここが「合わない」の判断に直結する。
案件を変えれば消えるもの
扱う商材とチャネルは、同じ会社の中でも案件によって変わる。CCAJ調査の業務量の増減を見ると、電話業務は「昨年度より減少した」が19社で「増加した」16社を上回り、メールやチャット等のテキスト業務は「増加した」が28社で最多だった。
対応チャネル別では、eメールに対応している企業が80.9%、有人チャットが55.9%ある。電話そのものが耐えられないなら、テキスト中心の枠へ移るという選択肢は業界内にある。移り方はカスタマーサポート(メール・チャット対応)の仕事内容で整理している。
会社を変えないと消えないもの
雇用形態、SVの配置人数、カスタマーハラスメント対策の整備状況は、案件を変えても同じ会社なら同じである。
特に雇用形態は、上で見たとおり派遣層のストレス1位が「雇用の安定性」54.7%だった。案件が終われば契約も終わる枠にいるかぎり、この不安は業務の内容を変えても残る。
業界を出ないと消えないもの
CCAJ調査で売上高を公開した47社の合計は1兆5,260億3,400万円で、前年度比765億8,200万円、4.8%の減少だった。経営課題として「AI活用による自動化対応・セルフサービス化の推進」を挙げた企業は63社と、優先度の上位に並んでいる。
定型的な問い合わせから順に自動化される。人に残るのは判断と例外処理の側になる。難しい電話の比率が上がっていく方向にあるというのは、職場を選び直しても変わらない前提である。
3つを並べると、辞める判断が要るのは3番目だけだとわかる。1番目は配属の相談で足り、2番目は転職で足りる。辞めるかどうかを先に決めてしまうと、この区別がつかなくなる。続けている人と離れる人を分けている条件はコールセンターの離職率で検証した。
次の職場で繰り返さないために確認する6項目
職場を変えると決めた場合、求人票と面接で確認する項目は、上の3つの正体から機械的に出せる。
求人票で読む3点
- 雇用形態と、案件の想定期間。派遣枠なら案件終了時の扱いを確認する。時給の高さが契約の短さとセットになっていることがある。
- 対応チャネル。電話専任か、メールやチャットを含むか。募集要項に書かれていない場合は、面接で必ず聞く。
- 評価項目の記載。件数や応対品質の指標が募集要項に書かれている会社は、基準を開示する姿勢がある。
このうち3番目は、書かれていること自体が判断材料になる。書かない会社が悪いとまでは言えないが、入ってから初めて評価表を見る状態は避けられる。
面接で聞く3点
- 1チーム何人にSVが何人か。平均は8.93人に1人。これを大きく上回る答えなら、入社直後のフォローは期待しにくい。
- カスタマーハラスメントの対応マニュアルがあるか。令和8年10月1日から義務化されるので、この時期に「これから整備する」と答える会社と「もうある」と答える会社に分かれる。
- 電話を切ってよい基準が決まっているか。厚生労働省の資料では、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報することが、周知すべき対処内容の例として挙げられている。
6項目のうち、いま最も差が出るのは5番目である。義務化の施行が近いため、対策の進み具合がそのまま会社の管理体制の実態を映す。求人の条件から絞る場合はカスタマーサポート(受信)の求人で雇用形態と勤務時間を照らせる。負荷の軽い現場の見分け方は楽なコールセンターの特徴と見分け方でも扱っている。
辞めると決めたときの手順は、契約の種類で変わる
最後に、実務の話をしておきたい。退職の申し出方は、雇用契約が有期か無期かで別になる。
期間の定めのない契約の場合
厚生労働省の「確かめよう労働条件」によれば、期間の定めのない労働契約で働いている労働者が退職する場合、原則として2週間前までに申し入れると民法で定められている。就業規則でこの期間を大幅に延長する規定を置いても、そのような規定は無効とされる。
「3ヶ月前に言わないと辞められない」という説明を受けても、法律上の下限は2週間である。
有期契約(派遣・契約社員)の場合
有期労働契約では、契約期間の満了前に退職するにはやむを得ない事由が必要になる。ただし例外があり、契約期間が1年を超えるものについては、1年を経過した日からはいつでも退職できるとされている(高度の専門的知識等を有する労働者と満60歳以上の労働者を除く)。
コールセンターの派遣契約は3ヶ月更新が多く、この例外に当たらないことが多い。その場合は、次の更新のタイミングを終期として動くのが現実的な進め方になる。
体調に影響が出ている場合は、辞める前に別の選択肢がある。休むこと自体に制度があり、順番が決まっている。
よくある質問
コールセンターが合わないと感じたら、すぐ辞めるべきですか
きつさの3つの正体のうち、案件を変えれば消えるものと会社を変えれば消えるものが2つある。まず自分がどれで消耗しているかを決めたほうが早い。電話そのものが無理なら、eメール80.9%、有人チャット55.9%というチャネルの実施状況から、テキスト中心の枠を探す選択肢がある。
クレームで精神的に限界です。会社に言っても意味がありますか
令和8年10月1日から、カスタマーハラスメントの防止措置は事業主の義務になる。相談窓口の設置、事実関係の確認、被害者への配慮、相談を理由とする不利益取扱いの禁止が、いずれも講ずべき措置に含まれている。申し出ること自体が制度に組み込まれた行動である。
数値目標がきついのは、どこも同じですか
件数と時間の管理はこの職種から消えない。差が出るのは基準の開示と採点者である。専任のQC・QA担当者がいる企業は31社、いない企業は35社と分かれているため、会社によって納得感は変わる。
3ヶ月で辞めるのは早すぎますか
早期離職の是非を示す公的統計はない。ただしSV1人あたりの担当人数が8.93人まで増えていることから、入社直後のフォローが薄くなる方向に動いているのは確かで、環境要因は存在する。期間の長さより、上の6項目のどれが原因だったかを言語化しておくほうが、次の応募で効く。
辞める前に休むという選択肢はありますか
ある。メンタル面の不調が出ている場合、受診と休職の手順は退職とは別に用意されている。医師の判断が先に必要になるため、順番を間違えると使えなくなる制度がある。
次に読む
出典
- 厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」個人調査(有効回答8,596人・有効回答率46.4%) https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r06-46-50.html
- 一般社団法人日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(対象109社・回答68社・回収率62.4%・2025年6月16日〜7月23日実施) https://ccaj.or.jp/telemarketing/doc/outsourcing_research_2025.pdf
- 厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます! カスタマーハラスメント対策の義務化【改正労働施策総合推進法・指針の内容】」 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662576.pdf
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」退職、解雇、雇止めなど https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/study/roudousya_taisyoku.html
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別/短時間労働者 職種別1時間当たり所定内給与額(企業規模計10人以上) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
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