温浴施設の受付は、券売機や自動精算機が入っている施設が多く、会計そのものの負担は他の業態より軽い。下足キーの受け渡し、館内着とタオルの手渡し、館内利用分の精算。手順としては単純な部類に入る。
軽くないのは、そのあとに残るほうである。館内で起きたことへの一次対応が、フロントに集まる。
公衆浴場法は、営業者または公衆浴場の管理者に対して、公衆衛生に害を及ぼす虞のある行為をする者を制止しなければならないと定めている。カウンターに立つ人間は、この管理者の側に置かれている。
受付は、館内の秩序を保つ側に法律で置かれている
「注意しづらいので黙っておく」という選択肢が、制度上は用意されていない。
第5条は「制止しなければならない」と書いている
公衆浴場法(昭和23年法律第139号)第1条は、公衆浴場を、温湯・潮湯または温泉その他を使用して公衆を入浴させる施設と定義している。営業には都道府県知事の許可が要る(第2条)。
第5条第1項は、入浴者に対して、浴そう内を著しく不潔にし、その他公衆衛生に害を及ぼす虞のある行為をしてはならないと定める。続く第2項が、営業者または公衆浴場の管理者に、その行為を制止しなければならないと課している。この義務に違反した場合は第10条で拘留または科料の対象になる。
浴室内での行為を止めるのは実際には清掃・浴室担当の役割だとしても、苦情が最初に届くのはフロントである。受付の応対マニュアルに「お声がけの文言」が用意されているのは、店の方針というより、この条文に対応した運用になっている。
第4条は、入浴を断る義務も定めている
第4条は、営業者は伝染性の疾病にかかつている者と認められる者に対しては、その入浴を拒まなければならないとしている。療養のために利用される公衆浴場で都道府県知事の許可を受けたものは、この限りではない。
断る側に立つ場面が、法律の側から想定されている。接客業の受付でありながら、入館をお断りする文言を覚えることになるのは、この業態の特徴である。
衛生の基準は都道府県の条例で決まる
第3条は、営業者に、換気・採光・照明・保温および清潔その他入浴者の衛生および風紀に必要な措置を求め、その基準は都道府県が条例で定めるとしている。
水質検査の頻度も、清掃記録の残し方も、全国一律ではない。他県の施設で働いた経験がそのまま通用するとは限らないという意味で、転居を伴う転職では確認する項目になる。
深夜営業の有無で、給与の計算式そのものが変わる
求人票に並ぶ時給の幅は、この業態では能力差ではなく時間帯差であることが多い。
午後10時を過ぎると25%増しになる
労働基準法(昭和22年法律第49号)第37条第4項は、午後10時から午前5時までの間に労働させた場合、その時間の労働について、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないと定めている。
| 勤務帯 | 根拠 | 時給1,200円の場合 |
|---|---|---|
| 午前5時〜午後10時 | 深夜割増の規定なし | 1,200円 |
| 午後10時〜午前5時 | 労働基準法第37条第4項(2割5分以上) | 1,500円以上 |
同じ人が同じカウンターに立っていても、午後10時をまたいだ時点で単価が変わる。「時給1,200円〜1,500円」と幅のある募集は、日中と深夜の両方を並べただけということがある。日中のシフトだけに入ると、実際の時給は下限側で固定される。応募前に見るべきは上限の数字ではなく、自分が入れる時間帯のほうになる。
18歳未満は深夜帯のフロントに立てない
同法第61条第1項は、満18歳に満たない者を午後10時から午前5時までの間に使用してはならないと定めている。ただし交替制によって使用する満16歳以上の男性は除かれる。交替制で労働させる事業では、行政官庁の許可を受けて午後10時30分まで、または午前5時30分から労働させることが認められる。
高校生アルバイトを深夜のフロントに置けないのは、この条文による。人手が最も薄くなる時間帯に、入れる人が制度的に絞られている。深夜のシフトが埋まりにくい業態だ、という言い方の中身はここにある。
施設数の推移が、募集の出どころを指している
働き先の母数は、厚生労働省の衛生行政報告例で年度ごとに追える。
銭湯は減り、その他の公衆浴場は増えている
| 区分 | 令和2年度末 | 令和6年度末 | 5年の増減 |
|---|---|---|---|
| 公衆浴場 計 | 23,954施設 | 23,668施設 | △286施設 |
| うち一般公衆浴場 | 3,231施設 | 2,730施設 | △501施設(△15.5%) |
| うちその他 | 20,723施設 | 20,938施設 | +215施設(+1.0%) |
一般公衆浴場とは、入浴料金が公衆浴場入浴料金の統制額の指定等に関する省令に基づく都道府県知事の統制を受け、かつ施設の配置について都道府県の条例による規制の対象にされている施設をいう(同報告例の用語の定義)。いわゆる銭湯がここに入る。スーパー銭湯、サウナ、健康ランド、日帰り温泉は、料金統制の外にある「その他」に分類される。
5年で銭湯は501施設、率にして15.5%減った。その他は215施設増えている。総数はほとんど動いていないのに、中身は入れ替わっている。
受付を専任で置ける規模がどちらかを考える
銭湯の側は家族経営や小規模経営が中心で、受付を専任で雇う設計になりにくい。増えているその他の側は、飲食・マッサージ・岩盤浴などを併設した複合施設が多く、フロントを独立した持ち場として置く。
募集がどちらから出るかは、この構成でほぼ決まる。施設の案内窓口という括りで探すなら、ホテル・施設・インフォメーションの求人を探すときに営業時間と深夜帯の有無を条件に含めておきたい。勤務先の種類ごとの違いは勤務先タイプ別の受付の仕事一覧にまとめている。
シフトが薄い時間帯ほど、判断の幅は広がる
人数と業務量が反比例するのが、この業態の構造になっている。
持ち場を離れられない時間がある
入館受付、下足キーとロッカーキーの管理、館内着とタオルの受け渡し、館内利用分の精算。ここまでは並行して回せる。回せなくなるのは、設備の不具合、忘れ物の照会、泥酔した利用者への対応、館内での苦情が重なったときである。
日中は他のスタッフに引き継げる。深夜は引き継ぎ先が減る。
割増賃金が付く時間帯の中身
午後10時以降のフロントは、人数が最も少なく、対応を求められる幅が最も広い。第5条第2項の制止義務も、第4条の入浴拒否も、時間帯によって軽くなるわけではない。
25%の上乗せは、この非対称への対価として読むと納得がいく。夜勤に慣れた職場と比べるなら、ホテルフロントの夜勤と館内対応が近い位置にある。
給料は受付・案内事務員の統計から見当をつける
温浴施設の受付だけを切り出した賃金統計はない。近い区分は厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査の「受付・案内事務員」になる。
正社員は年収356万円、パートは時給1,231円
| 区分 | 金額 | 平均年齢 | 勤続年数 | 労働者数 |
|---|---|---|---|---|
| 一般労働者(フルタイム) | 年収換算 約356万円 | 42.0歳 | 8.6年 | 84,880人 |
| 短時間労働者(パート) | 時給 1,231円 | 50.1歳 | 6.2年 | 84,580人 |
年収換算は「きまって支給する現金給与額256,500円 × 12か月 + 年間賞与485,800円」で算出した。
この1,231円は全業種の受付を平均した数字である。温浴施設の募集がこれを上回っている場合、深夜帯を含む募集である可能性を先に疑ったほうがいい。逆に日中のみの募集でこの水準を大きく超えていれば、受付以外の業務が含まれていると考えるのが自然になる。
よくある質問
温浴施設の受付に資格は必要ですか
受付業務そのものに免許の要件を定めた規定は見当たらない。ただし営業には公衆浴場法第2条による都道府県知事の許可が要り、衛生上の措置基準は都道府県の条例で定められている。入社後に、その施設の所在する自治体の基準に沿った手順を覚えることになる。
深夜のシフトには必ず入りますか
施設の営業時間による。24時間営業でなければ深夜帯そのものが発生しない。ただし労働基準法第61条第1項により、満18歳に満たない者は午後10時から午前5時まで使用できない(交替制の満16歳以上の男性を除く)ため、年齢によっては入れない時間帯がある。
入れ墨のある利用者はお断りするのですか
公衆浴場法が入浴を拒む義務を定めているのは、伝染性の疾病にかかっていると認められる者についてである(第4条)。入れ墨に関する規定はこの法律にはない。施設ごとの方針で決まるため、応募前に確認しておくと応対の想定がしやすい。
未経験でも採用されますか
公衆浴場は令和6年度末で23,668施設ある。うち一般公衆浴場は2,730施設まで減っているが、その他の公衆浴場は20,938施設で前年度より増えている。募集の入り口はその他の側に開いている。
次に読む
出典
- 公衆浴場法(昭和23年法律第139号)第1条・第2条・第3条・第4条・第5条・第10条 https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000139
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第37条第4項・第61条 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例の概況」生活衛生関係施設数(各年度末現在・表4)および用語の定義(一般公衆浴場)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/24/
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」受付・案内事務員(産業計・企業規模計10人以上・男女計)
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