テクニカルサポートとヘルプデスクは、どちらも「使い方が分からない」「動かない」という問い合わせを受ける仕事である。相手が社外の利用者ならテクニカルサポート、社内の従業員ならヘルプデスクと呼び分けることが多い。
ここまでは求人票にも書いてある。問題はその先で、この職種は業界統計の中に独立した姿を持っていない。
一般社団法人日本コンタクトセンター協会(CCAJ)の2025年度コンタクトセンター企業実態調査は、センター業務の受託内容を9区分で集計しているが、そこに「テクニカルサポート」という区分はない。厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査にも、ヘルプデスクという職種区分は存在しない。
名前は求人サイトで毎日見かけるのに、統計の上では姿が見えない。この状態のまま応募先を選ぶと、同じ職種名の求人が全然違う仕事だった、という事故が起きる。手がかりは別のところから拾う必要がある。
統計の中で、この職種はどこに埋もれているのか
受託内容の分類には「テクニカルサポート」がない
CCAJ調査でセンター業務の受託内容を尋ねた項目(複数回答・68社)の結果がこれである。
| 受託内容 | 社数 | 割合 |
|---|---|---|
| カスタマーサポート | 64社 | 94.1% |
| 問い合わせ受付 | 61社 | 89.7% |
| 受注センター | 47社 | 69.1% |
| 事務局業務 | 44社 | 64.7% |
| 営業サポート | 38社 | 55.9% |
| 商品勧誘等 | 37社 | 54.4% |
テクニカルサポートの案件は、上の2つのどちらかに数えられている。つまり業界の集計上は、機器の設定を説明する仕事と、注文の変更を受ける仕事が、同じ「カスタマーサポート」に入っている。
求人票の職種名も、この粒度の影響を受ける。「カスタマーサポート」と書かれた募集の中に、技術的な問い合わせが主のものが混ざる。逆に「テクニカルサポート」と書かれていても、実際はマニュアルの読み上げに近い案件がある。
一方で「エンジニア」は独立した職種として立っている
同じ調査の職種別の過不足では、扱いが変わる。この項目では5職種が別々に集計されている。
| 職種 | 不足感(不足+やや不足) | 66社に対する割合 |
|---|---|---|
| スーパーバイザー | 58社 | 87.9% |
| コミュニケーター・オペレーター | 48社 | 72.7% |
| マネージャー・センター長 | 36社 | 54.5% |
| エンジニア(システム・IT) | 33社 | 50.0% |
| トレーナー、QA/QC | 32社 | 48.5% |
(非公開2社を除く66社が母数。いずれの職種でも「過剰気味である」と答えた企業はゼロ)
エンジニア(システム・IT)は、コミュニケーターとは別の職種として数えられている。そして13社は「当該職種はない」と答えた。センターの中にIT職を置いていない会社が、2割近くある。
ヘルプデスクは、電話応対職とIT職の境界に置かれている
この2つの集計の間に、テクニカルサポートの席がある。問い合わせを受ける側としてはコミュニケーターに数えられ、答える中身としてはエンジニアの領域に触れる。
境界にあるということは、境界の引き方が会社ごとに違うということでもある。どこまでを一次受けが答え、どこからをエンジニアへ渡すのか。求人票の職種名では判別できないが、これが一日の中身をほぼ決めている。
どんな案件が多いのか。クライアントの業種から逆算する
職種名で分からないなら、発注元の業種から見たほうが早い。
上位は通販・金融・通信・インフラ
CCAJ調査でクライアントの業種を尋ねた項目(複数回答・68社)の上位はこうなる。
| クライアントの業種 | 社数 | 割合 |
|---|---|---|
| サービス業 | 50社 | 73.5% |
| 通信販売業 | 44社 | 64.7% |
| 金融・保険業 | 43社 | 63.2% |
| 流通・小売業 | 41社 | 60.3% |
| 通信業 | 38社 | 55.9% |
| 電力・ガス・水道 | 38社 | 55.9% |
| 地方自治体 | 33社 | 48.5% |
金融・保険業は前年度の34社から43社へ、9社増えた。通信業と電力・ガス・水道はそれぞれ5割台後半で並んでいる。
技術的な問い合わせが発生しやすいのは、通信業(回線・端末・アプリ)、電力・ガス・水道(スマートメーター・料金システム)、金融・保険業(ネットバンキング・認証)あたりである。携帯・通信キャリアの案件がどんな中身になるかは携帯・通信キャリアのコールセンターの仕事で扱っている。
相手は個人が7割で、用件は選べない
同調査で電話業務のコール対象を尋ねた項目では、「B to Cのみ」4社と「B to Cの方が多い」43社を合わせた47社が、非公開を除く67社の70.1%を占めた。イン・アウトの比率でも、インバウンド中心が57社で85.1%である。
社内ヘルプデスクを思い浮かべて応募すると、ここでずれる。受託センターの席の多くは、社外の個人利用者からの受信である。相手は機器の名前を正確に言えないし、何を試したかも覚えていない。技術的な難しさより、状況を聞き出す作業のほうが時間を食う。
前年度と比べた業務量では、チャットボット・ボイスボット等の自動応答が「増加した」21社で、「減少した」は2社だった。定型の切り分けは自動応答に移りつつある。人のところに残るのは、症状の説明が要領を得ない問い合わせのほうである。
社内ヘルプデスクは、別の入り口から入る
社内の従業員を相手にするヘルプデスクは、事業会社の情報システム部門か、そこから常駐業務を請けた会社の席になる。CCAJ調査の対象はコールセンター・エージェンシー会員109社なので、この調査に映っているのは主に社外向けのほうである。
同じ「ヘルプデスク」でも、母集団が違う。求人を見るときは、募集元が受託企業なのか事業会社なのかを最初に確認したほうがいい。
きつさは「技術が難しいこと」には出ていない
この職種のきつさは、しばしば専門知識の量として語られる。統計に出ているのは、別のところである。
答えを持っている人が薄い
先の職種別過不足をもう一度見ると、エンジニアの不足感が33社(50.0%)、トレーナー・QA/QCが32社(48.5%)で並んでいる。
テクニカルサポートの一次受けは、自分で答えられない問い合わせをエスカレーションする。渡す先がエンジニアで、教える側がトレーナーである。その両方が半数の会社で足りていない。
技術が難しいからきついのではない。難しい問い合わせを渡す先が詰まっているときに、電話口で待たせるのは一次受けの側になる。この構造がきつさの正体に近い。
専任トレーナーがいる会社は36社、いない会社は30社
同調査で専任トレーナーの有無を尋ねた項目では、「いる」36社・「いない」30社・非公開2社だった。3年の推移では2023年度30社、2024年度32社、2025年度36社と増えてはいるが、まだ半数をやや超えた水準にとどまる。
専任QC・QA担当者のほうは「いる」31社・「いない」35社で、こちらは半数に届いていない。
覚える内容が多い職種で、教える専任者がいない会社が3割から5割ある。研修期間の長さより、この体制の有無を先に確認したほうが実態に近い。
SVの距離も見ておく
CCAJ調査では、スーパーバイザー1人あたりが受け持つコミュニケーター数の平均が8.93人だった。2023年度8.54人、2024年度8.83人と3年連続で増えている。
技術的な判断に迷ったとき、最初に聞く相手はSVである。その1人が9人前後を見ている。判断に時間がかかる問い合わせを扱う職種ほど、この距離は効いてくる。きつさの感じ方についてはコールセンターがきついと感じたときの対処法も合わせて見てほしい。
生成AIが最初に入ってきたのが、この職種の作業である
きつさの側だけを見ると暗いが、支援の側も同時に動いている。
FAQの自動生成61.8%、回答支援58.2%
同調査で生成AIを何らかの形で活用していると答えた55社の、活用方法(複数回答)がこれである。
| 活用方法 | 割合 |
|---|---|
| 応対内容の要約 | 74.5% |
| メール文章の作成 | 63.6% |
| FAQの自動生成 | 61.8% |
| コミュニケーターの回答支援(回答候補の提示等) | 58.2% |
| レポートの作成 | 56.4% |
| コミュニケーター等のトレーニング | 49.1% |
FAQの自動生成と回答支援は、どちらもテクニカルサポートの中核作業である。応対中に回答候補が出てくるかどうかで、一次受けが答えられる範囲が変わる。
「センター運営の実務で運用している」と答えた企業は33社(48.5%)だった。検証段階を含めれば55社が関わっており、活用していないのは2社(2.9%)だけである。
覚える対象が「答え」から「探し方」へ移る
回答候補が自動で出てくる職場では、暗記の価値が下がる。代わりに効くのは、出てきた候補が今回の症状に当てはまるかを判定する作業になる。
似た症状で原因が違う、という場面はこの職種で日常的に起きる。生成された回答は、そこを外していても文章としては成立する。判定を飛ばして読み上げると、二次クレームになる。
未経験にとっては、入り口が広がる方向に働く
支援の仕組みがある職場は、必要な前提知識が下がる。CCAJ調査で採用に苦労していると答えた企業は67社中45社(82.1%)に達しており、間口自体はすでに広い。
ただし、支援の仕組みは会社ごとに導入状況が違う。同じ未経験可の求人でも、回答支援がある職場とない職場では、最初の3ヶ月の負荷がまったく違う。テキスト応対の支援状況はチャット・メール対応の仕事内容で詳しく扱っている。
給料と資格は、どこまで根拠があるか
賃金統計にヘルプデスクの区分はない
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査で、コールセンターのオペレーターは「電話応接事務員」(電話交換手を含む区分)に集計される。テクニカルサポートを切り出した数字はない。
| 区分 | 数値 |
|---|---|
| フルタイムの年収換算 | 約394万円 |
| 内訳(きまって支給する現金給与額) | 295,200円 |
| 内訳(年間賞与) | 393,700円 |
| 平均年齢 | 43.6歳 |
| 平均勤続年数 | 7.8年 |
| パート・アルバイトの時給 | 1,363円 |
年収換算は「きまって支給する現金給与額×12ヶ月+年間賞与」で算出した。技術的な問い合わせを扱う席がこの平均より高いかどうかを示すデータはないので、この394万円と1,363円を基準線として、目の前の求人がどちらに離れているかを見ることになる。給与の内訳はコールセンターの年収・給料で分解した。
資格が時給に直結する根拠は、統計には出てこない
「ヘルプデスクにはITパスポートが有利」という言い方をよく見かける。資格手当の相場を示す公的統計はないので、金額の話としては確認できない。
確認できるのは受験する側の動きのほうである。情報処理推進機構(IPA)によると、令和6年度のITパスポート試験の年間応募者数は30万9,068人で、試験開始以来はじめて30万人を超えた。情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験全体では74万1,884人(前年度比8.6%増)である。
伸びているのは非IT系の層で、勤務先別では「電気・ガス・熱供給・水道業」が前年度比66.6%増、業務別では「営業・販売(非IT関連)」が最多だった。IT職ではない人がIT基礎の資格を取る流れが強まっている。
資格の使いどころは、時給ではなく通過率のほう
この流れが意味するのは、資格が希少性を持つ段階を過ぎつつあるということである。持っていれば時給が上がる、という構図にはなりにくい。
一方で、未経験で技術系の応募をするときに、書類上で説明できる材料が一つ増える効果はある。応募段階の通過率に効くかどうかと、入社後の時給に効くかどうかは、分けて考えたほうがいい。
未経験の入り口と、応募前に確認する4点
入り口は「一次受け」に開いている
CCAJ調査でコミュニケーター・オペレーターの不足感を示した企業は66社中48社(72.7%)、採用に苦労している企業は67社中45社(82.1%)だった。過剰気味と答えた企業は1社もない。
一次受けの席は、この不足の直撃を受けている。未経験可の求人が多いのは、技術的な難度が下がったからではなく、採れていないからである。
育てる制度があるかは、会社によって割れている
同調査の経営課題の項目に「デジタル人材の採用・育成・リスキリング」がある。優先度が高いと答えたのは52社だが、対応状況では「着手している」34社、「検討中」24社、「着手していない」10社に分かれた。
優先度としては半数以上が挙げているのに、実際に動かしているのは半数に届いていない。技術的な知識を仕事の中で身につけたいなら、この差はそのまま入社後の差になる。未経験の入り口が広いことと、入ったあとに育ててもらえることは別の話である。
在宅にできるかは、案件の情報の性質で決まる
在宅オペレーションを「既に実施している」企業は、非公開を除く65社中39社で60%。一方、「実施予定はない」と答えた22社の理由は「セキュリティ上の問題」が18社(81.8%)で最多だった。
技術サポートは顧客の契約情報や端末情報を扱うため、案件によっては在宅の対象から外れる。チャネルではなく、扱う情報の機微さで決まる。
確認する4点
- エスカレーション先が誰で、何人いるか。エンジニア職の不足感は50.0%で、13社は「当該職種はない」と答えている。渡す先が社内にあるかどうかを確認する。
- 回答支援やFAQ自動生成の仕組みがあるか。55社中58.2%が回答支援に生成AIを使っている。ある職場とない職場で、覚える量が変わる。
- 専任トレーナーがいるか。「いる」は36社にとどまる。研修期間の長さより先に聞く。
- クライアントの業種と、社外向けか社内向けか。相手が個人か法人かで、聞き取りの難度が変わる。
このうち1番目に答えられない会社は避けたほうがいい。渡す先が決まっていない現場では、答えられない問い合わせを抱えたまま電話口に立つことになる。
条件を絞って探す場合はテクニカルサポート・ヘルプデスクの求人から、雇用形態や勤務形態で並べ替えて確認できる。
よくある質問
テクニカルサポートとヘルプデスクの違いは何ですか
相手が社外の利用者か、社内の従業員かで呼び分けるのが一般的である。ただし業界統計では両方とも「カスタマーサポート」または「問い合わせ受付」に集計されており、区分として分かれていない。求人票の職種名だけでは判別できないので、募集元が受託企業か事業会社かを確認するほうが確実である。
未経験でもテクニカルサポートに応募できますか
CCAJ調査では採用に苦労している企業が67社中45社(82.1%)、コミュニケーターの不足感が66社中48社(72.7%)に達している。一次受けの席は未経験に開いている。ただし専任トレーナーがいる会社は36社にとどまるため、教育体制は個別に確認したほうがいい。
パソコンが得意でないと務まりませんか
必要な水準を示した統計はない。判断材料になるのは、応募先に回答支援やFAQ生成の仕組みがあるかどうかである。55社中61.8%がFAQの自動生成に、58.2%が回答支援に生成AIを使っており、自力で暗記する範囲は狭まる方向にある。
ITパスポートは取ったほうがいいですか
資格手当の相場を示す公的統計はない。ただし令和6年度の年間応募者数は30万9,068人で、非IT系の勤務先からの応募が伸びている。未経験で応募するときの説明材料として使う位置づけになる。
テクニカルサポートの経験は次の仕事に活きますか
障害の切り分けとエスカレーションの判断は、社内情シスや運用保守の入り口と重なる。ただしCCAJ調査で13社が「エンジニア職は当該職種なし」と答えている通り、センター内に技術職の階段がない会社もある。キャリアの道筋はコールセンターSVの仕事内容と年収も合わせて見ておきたい。
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出典
- 一般社団法人日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(対象109社・回答68社・回収率62.4%・2025年6月16日〜7月23日実施)https://ccaj.or.jp/telemarketing/doc/outsourcing_research_2025.pdf
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計・企業規模計10人以上)/短時間労働者 職種別1時間当たり所定内給与額 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「令和6年度『iパス(ITパスポート試験)』の年間応募者数等について」(年間応募者数309,068人・情報処理技術者試験全体741,884人) https://www.ipa.go.jp/shiken/reports/ip-oubo2024.html
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