向き不向きの話は、たいてい性格から始まる。声が明るい、人の話を最後まで聞ける、打たれ強い。
その並べ方で判定すると、実際に起きていることが説明できない。話すのが得意な人が3ヶ月で辞め、人前が苦手な人が7年続ける。同じ人が、センターを移っただけで続くようになる。
判定の対象がずれている。この仕事は電話で始まるが、電話では終わらない。日本コンタクトセンター協会(CCAJ)が2025年度に実施したコンタクトセンター企業実態調査(対象109社・回答68社)では、生成AIを実務で運用している企業が33社あり、その使い道の最多は「応対内容の要約」で74.5%だった。要約を機械に渡した先に残るのは、話す作業のほうではない。
「電話が得意かどうか」で適性が判定できない理由
まず、この職種で実際に発生している作業の構成を見ておきたい。
用件を選ぶ側にいるのは顧客のほうである
CCAJ調査で電話業務の受信と発信の比率(売上ベース)を尋ねた結果では、非公開を除く67社のうち57社、85.1%が「インバウンド(受信)のみ」または「インバウンドの方が多い」と答えている。コールの対象も「B to Cのみ」「B to Cの方が多い」が47社で、同じく67社の70.1%を占めた。
受信中心で、相手は個人。この2つが重なると、一日の中身は「かかってきた順に処理する」形になる。何が来るかを決めるのは顧客側で、担当者の側に選択権はない。
適性の判定対象はここにある。話が上手いかどうかではなく、内容を選べない状態で処理と記録を続けられるかどうかで分かれる。仕事の全体像はコールセンターの仕事内容で分解した。
機械に先に渡されたのは、話す作業ではない
同調査で生成AIの活用状況を尋ねたところ、「センター運営の実務で運用している」が33社(48.5%)で最多だった。PoC段階と社内検証を含めると、何らかの形で活用している企業は55社にのぼる。その55社が挙げた活用方法(複数回答)はこうなっている。
| 生成AIの活用方法 | 割合(N=55) |
|---|---|
| 応対内容の要約 | 74.5% |
| メール文章の作成 | 63.6% |
| FAQの自動生成 | 61.8% |
| コミュニケーターの回答支援 | 58.2% |
| レポートの作成 | 56.4% |
| チャットボットによる自動化対応 | 52.7% |
| ボイスボットによる自動化対応 | 49.1% |
| コミュニケーターの評価(モニタリングの採点) | 49.1% |
上位に並んでいるのは、要約・文章作成・回答候補の提示である。どれも、電話を受けている最中か切ったあとの「書く・調べる」側の作業にあたる。
業界は、話す部分ではなくその周辺から機械に移している。適性を電話への抵抗感だけで測ると、実際に負荷がかかる場所を外す。
判断軸1:用件を選べない状態に、どこまで耐えられるか
受信中心の職場で最初に効いてくるのは、内容を選べないことそのものである。
耐性の問題にする前に、会社側の備えを見る
CCAJ調査は2025年度からカスタマーハラスメント対策の項目を設けている。未回答を除く67社について、6項目それぞれで「既に対応済み」と答えた社数はこうなった。
| 対策項目 | 既に対応済み | 割合 |
|---|---|---|
| 社内報告・連携体制の整備 | 35社 | 52.2% |
| 対応基準の明確化 | 33社 | 49.3% |
| 対応方針または行動基準の策定・公開 | 30社 | 44.8% |
| 相談窓口の設置 | 29社 | 43.3% |
| 対応マニュアルの策定 | 27社 | 40.3% |
| 警察通報基準・規則の策定 | 21社 | 31.3% |
50%を超えたのは社内報告・連携体制の整備だけで、残る5項目はいずれも半数に届いていない。対応マニュアルがある会社は4割、警察への通報基準を決めている会社は3割にとどまる。
この数字を見ると、打たれ強さを適性として測ることに無理があると分かる。報告先と判断基準がある職場と、個人の我慢に任される職場。同じ電話を受けても、消耗の速さはこの差で変わる。
判定に使えるのは、自分ではなく求人票の側
耐えられるかどうかを事前に自己判定する材料は、応募者の手元にない。代わりに確認できるのは、会社が何を用意しているかである。
対応方針または行動基準を策定・公開している会社は30社(44.8%)で、公開されているものは外から確認できる。企業サイトにカスタマーハラスメントへの方針が掲示されているかどうかは、応募前に調べられる数少ない指標になる。掲示がなければ、社内での位置づけも固まっていない可能性がある。
判断軸2:話す力より、記録と操作の速さを上に置けるか
適性の2つめは、通話そのものではなく、その前後の作業にある。
受託業務の上位3つは、すべて検索と入力を伴う
CCAJ調査でセンター業務の受託内容を尋ねた結果(複数回答)は、カスタマーサポートが64社(94.1%)、問い合わせ受付が61社(89.7%)、受注センターが47社(69.1%)の順だった。
3つとも、顧客情報を検索し、確認し、結果を記録する作業を含む。通話の巧拙より、画面上の操作が滞らないことのほうが1件あたりの処理時間を決める。
電話は減り、テキストと自動応答は増えている
同調査で業務の増減を尋ねた項目では、電話業務は「昨年度より減少した」が19社で、「増加した」の16社を上回った。一方、メールやチャット等のテキストによる業務は「増加した」が28社で最多となり、その業務を行っていない企業を除く62社の45.2%を占めた。チャットボットやボイスボットによる自動応答も「増加した」が21社で、行っていない企業を除く50社の42%にあたる。
電話が減り、書く仕事が増えている。対応チャネルの構成も同じ方向を指していて、eメールに対応している企業は55社(80.9%)、有人チャットは38社(55.9%)にのぼる。
話すのが好きという動機は入り口では効く。ただし続くかどうかを決めるのは別の作業で、文章で正確に返すことが苦にならないほうが、この職種では長く効く。
判断軸3:フルタイムとパート、どちらの形で続けるか
3つめの軸は、仕事の中身ではなく働く形のほうにある。
3人に1人が短時間勤務で回している
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査では、コールセンターのオペレーターは「電話応接事務員」として集計される。フルタイム(一般労働者)は17万9,540人、パート・アルバイト(短時間労働者)は9万7,730人。合計27万7,270人のうち35.2%が短時間勤務にあたる。
パート側の平均年齢は50.2歳、勤続5.7年で、1日5.9時間・月14.0日が平均である。短期の腰掛けとして使われている枠ではない。短時間勤務を選ぶことが、この職種では適性を下げる選択にならない。
残業は月8時間しかない
フルタイムの労働時間を、他の事務系職種と並べるとこうなる。
| 職種 | 所定内実労働時間 | 超過実労働時間 |
|---|---|---|
| 電話応接事務員 | 154時間 | 8時間 |
| 秘書 | 152時間 | 8時間 |
| 総合事務員 | 155時間 | 10時間 |
| 会計事務従事者 | 157時間 | 9時間 |
| 事務用機器操作員 | 156時間 | 10時間 |
| 受付・案内事務員 | 160時間 | 7時間 |
所定内も超過も短いほうに入る。持ち帰りの仕事が発生しにくく、生活の側を設計しやすい職種である。
裏を返すと、時間を延ばして収入を増やす余地は小さい。残業で積み増す働き方が最初から想定されていない、と読んだほうが実態に近い。
枠を決めると、収入の見通しも同時に決まる
同じ調査で、フルタイムの年収換算は約394万円になる。きまって支給する現金給与額29万5,200円を12ヶ月分にして、年間賞与39万3,700円を足した額である。パート側は1時間当たり所定内給与額1,363円で、平均的な勤務日数と時間で計算すると月収換算は約11万3,000円にとどまる。
年収394万円のほうは平均勤続7.8年の集団の値で、入社初年度に届く額ではない。パートの1,363円も平均年齢50.2歳の層の値になる。どちらの数字を自分の基準にするかは、枠を決めた時点で自動的に決まる。逆に枠を決めないまま求人を眺めると、月給制と時給制の案件が同じ列に並んで見えて、比較が成立しない。勤務形態から絞り込むならカスタマーサポート(受信)の求人で雇用区分と勤務時間を指定できる。
同じ「コールセンター」でも、向き不向きは案件で別物になる
3つの軸を通しても判定が揺れる場合、原因は職種ではなく案件の側にあることが多い。
クライアントの業種で一日が入れ替わる
CCAJ調査でクライアントの業種を尋ねた結果(複数回答)は、サービス業50社(73.5%)、通信販売業44社(64.7%)、金融・保険業43社(63.2%)、流通・小売業41社(60.3%)、通信業と電力・ガス・水道が各38社(55.9%)と続く。
1社が複数業種の案件を抱えているため、同じ会社に入っても配属先で扱う商材が変わる。通販の注文受付と、金融商品の問い合わせと、電力の契約変更では、覚える量も、間違えたときの重さも違う。
「コールセンターに向いていない」と感じたとき、その判定が案件に向けられたものなのか職種に向けられたものなのかは、切り分けておく価値がある。
発信中心の職場は少数だが実在する
受信が85.1%を占める一方、アウトバウンド中心(「アウトバウンドのみ」「アウトバウンドの方が多い」)は9社で13.4%だった。
受信は用件が選べず、発信は相手の都合が読めない。負荷のかかり方が違うため、片方で続かなかった人がもう片方で続くことはある。ただし募集の絶対数が違うので、発信を選ぶと選択肢は狭くなる。両者の差はインバウンドとアウトバウンドの違いで整理した。
「向いていない」と感じたとき、原因を3つに切り分ける
続かないと感じたとき、原因の置き場所によって次の一手が変わる。
案件のミスマッチなら、社内異動で消えることがある
扱う商材が合わない、覚える量が多すぎる、クレームの性質がつらい。この種の不一致は案件に由来する。
CCAJ調査の回答企業68社が保有するセンターは合計522カ所で、1社平均7.7カ所。センター数を尋ねた項目では「2〜3カ所」が17社(25%)で最も多く、「4〜5カ所」が15社(22.1%)で続いた。複数のセンターを持つ会社なら、配属替えで解消する余地が社内にある。
体制の薄さなら、会社を変えれば消える
SV1人あたりのコミュニケーター数は平均8.93人で、2023年度8.54人、2024年度8.83人と3年連続で増えている。専任トレーナーがいる企業は36社、いない企業は30社。専任のQC・QA担当者は「いる」31社に対して「いない」が35社と、こちらは半数を割る。
新人が最初に必要とするのは、判断に迷った電話の逃がし先である。ここが薄い会社では、同じ人が同じ電話を受けても消耗が早い。続かなかった原因が体制側にあるなら、職種ごと変えるのは過剰な対処になる。きつさの内訳と切り分けはコールセンターがきついと感じたときで扱っている。
職種そのものが合わないなら、移っても残る
用件を選べないこと、応対を記録に残し続けること、評価が通話の中身で行われること。この3つはどのセンターにも付いてくる。
判別の目安は単純で、辞めたい理由を書き出したときに会社固有の事情が並ぶか、業務の性質そのものが並ぶかを見ればいい。後者だった場合の移り先はコールセンターからの転職にまとめた。
求人票と面接で確認する4点
ここまでの軸を、応募前に確認できる形へ落とすとこうなる。
順番に見るとこうなる
- 受託している案件の業種と受託内容。カスタマーサポートなのか受注なのか、相手は個人なのか法人なのかで一日が変わる。求人票の職種名では判別がつかないため、面接で聞く。
- SVの配置人数。平均は8.93人に1人。これより薄ければ、入社直後のフォローは期待しにくい。
- カスタマーハラスメントへの対応方針が公開されているか。策定・公開まで済んでいる会社は30社(44.8%)にとどまる。企業サイトで裏が取れる。
- フルタイムかパートか。週何日・1日何時間なら続くかを先に決めておくと、条件のすり合わせで崩れにくい。
このうち1番目を省くと、残る3つが意味を持たなくなる。案件が違えば、必要なSVの厚みもクレームの頻度も変わるからだ。逆に案件さえ確認できていれば、あとは求人票と企業サイトで裏が取れる。
よくある質問
コールセンターに向いていないのはどんな人ですか
性格で答えられる質問ではない。統計から言えるのは、用件を選べない状態で処理と記録を続ける形が合うかどうかで分かれるということである。受信中心が85.1%、相手が個人の案件が70.1%という構成では、内容を選ぶ余地がない。ここが耐えがたい場合、会社を変えても解消しにくい。
人見知りでもコールセンターで働けますか
対面がない職種なので、初対面の相手に自分から話しかける負荷はかからない。CCAJ調査ではeメールに対応している企業が80.9%、有人チャットが55.9%あり、テキスト中心の枠も存在する。ただしこれは企業単位の実施状況であって、テキスト専任の求人がその割合であるという意味ではない。募集要項でチャネルの指定を確かめたい。
3ヶ月で向いていないと判断してもいいですか
賃金構造基本統計調査の平均勤続年数はフルタイム7.8年、パート5.7年で、短期で入れ替わる職種ではない。判断を急ぐ理由は統計の側にない。ただし判定の基準を決めないまま続けると、同じ迷いが年単位で残る。案件・体制・職種のどれが原因かを先に切り分けたほうが早い。
クレームに弱いと続きませんか
カスタマーハラスメント対策で「既に対応済み」が半数を超えたのは、社内報告・連携体制の整備の35社だけである。個人の耐性の前に、報告先と判断基準が用意されているかどうかで結果が変わる。弱さの問題として片づけると、会社選びの材料を1つ失う。
未経験でも適性を判断できますか
3つの軸はいずれも未経験でも確認できる。用件を選べない形に耐えられるか、記録と操作を速く回せるか、フルタイムとパートのどちらで続けるか。経験の有無より、この3点を先に決めるほうが判定の精度は上がる。
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出典
- 一般社団法人日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(対象109社・回答68社・回収率62.4%・2025年6月16日〜7月23日実施) https://ccaj.or.jp/telemarketing/doc/outsourcing_research_2025.pdf
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)/短時間労働者 職種別1時間当たり所定内給与額(企業規模計10人以上) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
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