在宅のコールセンターは、もう例外的な働き方ではない。日本コンタクトセンター協会(CCAJ)が2025年度に実施したコンタクトセンター企業実態調査(対象109社・回答68社)では、在宅オペレーションを「既に実施している」企業が39社あり、非公開を除く65社の60%を占めた。
ただしこの60%は、企業の割合である。求人の6割が在宅で選べるという意味ではない。
同じ調査で「実施予定はない」と答えた22社のうち18社(81.8%)が、理由にセキュリティ上の問題を挙げている。在宅にできるかどうかを決めているのは、本人の希望でも会社のやる気でもなく、そのセンターが預かっている案件の性質のほうだ。
在宅コールセンターは、業界のどこまで広がったのか
まず、広がりの実際の速さを確認しておきたい。
3年で31社から39社へ
CCAJ調査で在宅オペレーションの実施状況を尋ねた結果は、次のように推移している。
| 回答 | 2023年度(N=64) | 2024年度(N=70) | 2025年度(N=68) |
|---|---|---|---|
| 既に実施している | 31社 | 35社 | 39社 |
| 1年以内に実施する予定がある | 1社 | 0社 | 1社 |
| 1年後以降に実施する予定がある | 4社 | 3社 | 3社 |
| 実施予定はない | 23社 | 27社 | 22社 |
| 非公開 | 5社 | 5社 | 3社 |
非公開を除いた分母で計算すると、「既に実施している」は52.5%、53.8%、60.0%と上がっている。逆に「実施予定はない」は39.0%、41.5%、33.8%と、直近で下がった。
数字の向きだけを見れば、在宅は広がっている。
同じ54社を追うと、増えていない
ところが、同調査には別の切り口が併記されている。2024年度と比較可能な54社に限った内訳である。
2024年度は「すでに実施」31社・「実施予定あり」2社・「実施予定なし」20社。2025年度は「すでに実施」30社・「実施予定あり」4社・「実施予定なし」19社だった。
同じ顔ぶれで追うと、実施企業は1社減っている。増えたのは「実施予定あり」の2社だけだ。
回答企業は年度ごとに入れ替わるため、全体比率の上昇をそのまま普及の加速と読むわけにはいかない。在宅化は、すでに導入した会社が増やす段階ではなく、導入済みの会社の中で枠を配る段階に入っていると見たほうが、探し方の見当は付けやすい。センター業務の全体像はコールセンターの仕事内容で分解した。
会社が在宅を導入した理由は、コスト削減ではない
導入の動機を見ると、応募する側にとっての意味が変わってくる。
実施理由の順位は3年間ほぼ動いていない
在宅を実施している企業が挙げた理由(複数回答)はこうなっている。
| 実施理由 | 2023年度(N=31) | 2024年度(N=35) | 2025年度(N=39) |
|---|---|---|---|
| 働き方の多様化のため | 90.3% | 85.7% | 84.6%(33社) |
| BCP対策のため | 67.7% | 62.9% | 61.5%(24社) |
| 採用が容易である | 35.5% | 31.4% | 38.5%(15社) |
| 業務効率化のため | 25.8% | 25.7% | 28.2%(11社) |
| 経費削減のため | 22.6% | 20.0% | 25.6%(10社) |
上位2つは3年とも同じで、働き方の多様化と災害時の事業継続が動機の中心にある。経費削減は最下位で、25.6%にとどまる。
経費削減が下位であることの読み方
在宅勤務が広がると、通勤手当やオフィス賃料が浮いた分だけ賃金が抑えられるのではないか、という懸念は自然に出てくる。
調査の数字は、その懸念を支えていない。経費削減を理由に挙げた企業は10社で、4社に1社である。在宅は、費用を削る手段としてよりも、働き手を確保する手段として導入されている。
その傍証が3つめの項目にある。「採用が容易である」は2024年度の31.4%から38.5%へ上がり、上位5項目で唯一、明確に伸びた。採用に苦労している企業が82.1%に達している業界で、在宅は募集条件を良くするための札として扱われている。
応募側にとって何が変わるか
在宅が採用の札である以上、在宅可の求人は、通勤前提の求人より条件面で競争にさらされている。時給や勤務時間の柔軟さで見劣りする在宅求人は、そもそも成立しにくい。
一方で、札として使われているということは、案件が終われば枠も消えるということでもある。在宅であること自体は、在籍の安定を意味しない。
在宅にできない会社の理由は、この2年で入れ替わっている
導入していない22社の側を見ると、線引きがどこで引かれているかが見えてくる。
セキュリティだけが動かない
「実施予定はない」と答えた企業が挙げた理由(複数回答)は次の通りである。
| 実施しない理由 | 2023年度(N=23) | 2024年度(N=27) | 2025年度(N=22) |
|---|---|---|---|
| セキュリティ上の問題 | 78.3% | 77.8% | 81.8%(18社) |
| クライアントの要望 | 26.1% | 33.3% | 54.5%(12社) |
| 労務管理上の問題 | 43.5% | 55.6% | 50.0%(11社) |
| 品質管理上の問題 | 39.1% | 40.7% | 45.5%(10社) |
| 社則・規定上不可 | 34.8% | 25.9% | 36.4%(8社) |
| 現場マネジメントが困難 | 47.8% | 66.7% | 31.8%(7社) |
セキュリティは3年とも1位で、比率もほとんど動いていない。個人情報や決済情報を扱う案件を自宅に出せないという判断は、技術や運用の改善で変わる種類のものではない。
「自社で管理できない」から「発注元が認めない」へ
動いているのは他の2項目である。「現場マネジメントが困難」は66.7%から31.8%へ下がり、「クライアントの要望」は33.3%から54.5%へ上がった。
母数が27社から22社と小さいため、この振れ幅をそのまま趨勢と断定はできない。それでも方向としては、在宅にできない理由が自社の管理能力の側から、発注元の意向の側へ移りつつある。
読み替えると、こうなる。在宅にできるかどうかは、応募先の会社の方針ではなく、その会社が誰から何を受託しているかで決まる。面接で「御社は在宅可能ですか」と聞くより、「この案件は在宅対象ですか」と聞いたほうが、答えは正確に返ってくる。
どの案件なら在宅にできるのか
案件で決まるなら、案件の側の分布を見ておく価値がある。
クライアントの業種で分かれる
CCAJ調査でクライアントの業種を尋ねた結果(複数回答)は、サービス業50社(73.5%)、通信販売業44社(64.7%)、金融・保険業43社(63.2%)、流通・小売業41社(60.3%)と続く。
セキュリティが在宅化の最大の障壁である以上、金融・保険や官公庁・地方自治体の案件は自宅に出しにくい側に入る。逆に、商品の使い方の問い合わせや、注文内容の確認といった業務は、扱う情報の重さが違う。
ただし業種だけで機械的に決まるわけではない。同じ通信販売の案件でも、決済情報を照会する工程が含まれれば線引きは変わる。
テキスト対応の枠は在宅と相性がいい
対応チャネルの構成を見ると、電話に対応している企業が65社(95.6%)、eメールが55社(80.9%)、Webフォームが47社(69.1%)、有人チャットが38社(55.9%)である。
音声を伴わないチャネルは、家庭内の生活音が問題にならない。同調査の業務の増減では、テキストによる業務を「昨年度より増加した」と答えた企業が28社で最多となり、その業務を行っていない企業を除く62社の45.2%を占めた。
在宅で働く枠を探すなら、電話専任の募集より、メールやチャットを含む募集のほうが分母が広い。電話を使わない働き方はメール・チャット対応のカスタマーサポートで扱っている。
在宅の求人で最初に確認するのは、機材ではなく雇用形態
在宅の求人票は機材の要件が目に付きやすい。ただし、条件を決めているのはその手前にある。
直接雇用か派遣かで、終わり方が変わる
CCAJ調査で雇用状況を答えた67社のうち、「直接雇用の方が派遣より多い」は52社で77.6%を占めた。ただし派遣を活用している企業は59社(88.1%)に達し、派遣活用の理由の最多は「一時的な人材不足の解消」で88.1%だった。
派遣枠は案件の増減を吸収するために置かれている。在宅可の案件が終われば、その枠ごと無くなる可能性がある。雇用形態ごとの違いはコールセンターは派遣と正社員どっちで整理した。
在宅で時給が下がる根拠は、調査には無い
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査では、コールセンターのオペレーター(電話応接事務員)の短時間労働者の1時間当たり所定内給与額は1,363円である。フルタイムの年収換算は約394万円になる。
この統計は在宅と通勤を分けて集計していないため、在宅だけの相場は分からない。分かるのは、在宅を経費削減のために導入した企業が25.6%にとどまり、採用のために導入した企業が38.5%あるという構成のほうである。時給を下げる施策として位置づけられてはいない。
条件から絞り込むなら在宅・リモートのコールセンター求人特集にまとめている。
セキュリティ81.8%の裏返しが、応募者側の準備になる
必要なものの一覧は、実施していない会社が挙げた理由から逆算できる。
会社が解決したはずの3項目
在宅を実施していない理由の上位は、セキュリティ81.8%、労務管理50.0%、品質管理45.5%だった。裏返せば、実施している39社はこの3つを解決した状態で運用している。
解決の中身は調査に書かれていない。それでも、求められる条件の見当は付く。セキュリティなら通信環境と、画面を他人に見られない作業空間。労務管理なら勤務時間の記録と、業務の開始と終了の合図。品質管理なら通話のモニタリングと、その結果に基づく指導の受け入れになる。
つまり在宅の準備とは、機材をそろえることではなく、自宅の一部を業務の管理下に置くことに同意できるかという話である。家族と共有する空間しか用意できない場合、機材の要件を満たしていても採用に届かないことがある。
面接で聞く4点
- この案件は在宅対象か、そして案件の想定期間はどれくらいか。会社単位ではなく案件単位で聞く。
- 在宅は入社直後からか、出社研修を経てからか。研修期間の勤務地は求人票に書かれていないことが多い。
- 勤怠とモニタリングの方法。何をもって勤務時間とするか、通話をどう評価するかを確認する。
- 通信環境と作業空間の要件。回線の種類、個室の要否、同居家族の在室可否まで含めて聞く。
この4点のうち1番目を先に済ませると、残りの3つは案件が決まった時点でほぼ確定する。逆に会社単位で「在宅可」とだけ確認して進むと、配属先で通勤に戻る余地が残る。
在宅にしても消えない負荷
働く場所を変えても、業務の構造は変わらない。
相談相手は物理的に遠くなる
CCAJ調査によると、SV1人あたりが受け持つコミュニケーターの数は平均8.93人で、2023年度8.54人、2024年度8.83人と3年連続で増えている。
SVは新人のフォローと、オペレーターが判断できない案件の引き受け先を兼ねる立場である。1人あたりの担当が増え続けている状態で、さらに物理的な距離が加わる。隣の席で聞けたことを、チャットや電話で聞き直す形になる。
未経験で在宅から始める場合、この点は事前に織り込んでおきたい。研修と最初の1ヶ月の実際はコールセンター未経験デビューの流れで扱った。
評価は在宅でも通話の中身で行われる
同調査で生成AIの活用方法を尋ねた項目(活用している55社・複数回答)では、「応対内容の要約」が74.5%、「コミュニケーターの回答支援」が58.2%、「コミュニケーターの評価(モニタリングの採点)」が49.1%だった。
要約も、回答候補の提示も、採点も、在宅かどうかとは無関係に動く。在宅は勤務地の話であって、評価から離れる話ではない。自宅で一人で対応していても、通話の中身は記録され、採点の対象になる。
その意味で、在宅を「見られていない働き方」として選ぶと期待が外れる。選ぶ理由になるのは、通勤時間と勤務地の制約が外れることのほうだ。
よくある質問
在宅コールセンターは未経験でも始められますか
CCAJ調査に、在宅勤務者の経験年数を尋ねた項目はない。分かるのは、在宅を実施している39社のうち15社(38.5%)が理由に「採用が容易である」を挙げていることである。採用の間口を広げる目的で導入されている以上、未経験を排除する設計にはなりにくい。ただし研修期間だけ出社を求める運用は珍しくないため、勤務地は研修期間と本稼働を分けて確認したい。
在宅だと時給は下がりますか
在宅と通勤を分けた賃金統計はない。CCAJ調査で在宅の実施理由に「経費削減のため」を挙げた企業は10社(25.6%)で最下位、「採用が容易である」は15社(38.5%)で3位である。賃金を抑える手段として位置づけられているとは読み取れない。
在宅コールセンターに必要なものは何ですか
必要な機材の一覧を示した公的な資料はない。実施していない企業が挙げた理由の上位は、セキュリティ81.8%・労務管理50.0%・品質管理45.5%である。その裏返しとして、通信環境、他人に画面を見られない作業空間、勤怠とモニタリングを受け入れる体制が求められると考えるのが自然だろう。具体的な機材は会社が貸与する場合と自前の場合があり、募集要項ごとに違う。
在宅の求人が見つからないのはなぜですか
実施している企業は65社中39社(60%)だが、これは企業単位の割合である。1社が平均7.7カ所のセンターを持ち、複数業種の案件を抱えているため、在宅対象になるのはそのうちの一部にとどまる。加えて、同じ54社を2年追った内訳では実施企業が31社から30社へ1社減っており、枠が急速に増えている局面ではない。
在宅とオフィス勤務で仕事内容は変わりますか
CCAJ調査に、在宅と出社で業務内容が異なるかを尋ねた項目はない。読み取れるのは、在宅にできない理由の1位がセキュリティであることから、扱う情報の重い案件が在宅から外れやすいという傾向である。業務の難度そのものより、扱う案件の種類が変わる可能性のほうが高い。
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出典
- 一般社団法人日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」(対象109社・回答68社・回収率62.4%・2025年6月16日〜7月23日実施) https://ccaj.or.jp/telemarketing/doc/outsourcing_research_2025.pdf
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)/短時間労働者 職種別1時間当たり所定内給与額(企業規模計10人以上) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
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